ここでは、最近発売されたリイシュー&BOX盤のなかから注目盤を厳選して紹介します。
デビュー25周年アルバムでたどる大萩康司の軌跡
ブローウェル作品を集めたアルバム『11月のある日』がリリースされたのが2000年。22歳のギタリストの鮮烈なデビューは、いまでも忘れられない。初めて取材で会うことができたのはそのとき。年齢よりも若く感じる素朴なイケメンで、少しはにかみながら、でも真摯かつ丁寧にことばを紡いでいくのが印象的だった。飾らない素朴さは、それから四半世紀を経たいまでも変わらない。
大萩康司の音楽の最高の魅力は、甘くとろけるような音色、そして抒情をたたえた豊かな詩情だ。デビュー25年となったいまでも、そこに音楽の深みを加えつつ、その音楽の魅力が不変なのは、お会いした時の彼自身の印象が変わらないのと同じだ。
2016年までの約15年の間にビクターで制作された16作品から大萩自身が選曲したこのデビュー25周年アルバム『25th Anniversary Best~音が紡いだ25年~』を聴けば、それが実感できるだろう。
デビュー以来柱に据えて取り組んできたラテン・アメリカ系のレパートリーを中心に選曲した2枚組。1枚目には組曲やソナタなどの聴きごたえのある作品を集める。とくにセルジオ・アサドの《アクアレル》のみずみずしさが印象的。そして2枚目は魅力的な小品の数々。数種の録音があるうち、作曲者とのデュオ版が選ばれた、大萩の看板曲のひとつであるレイ・ゲーラ《そのあくる日》では、ギター界随一のリリシストぶりを聴くことができる。
新録音はないとはいえ、このアルバムのために新規マスタリングを行ない音の鮮度も上がった。オールカラーのブックレットには初公開となる秘蔵写真も収められ、ファン必携であるのはもちろん、これから大萩の音楽の世界を味わうリスナーにとっても最初の一枚にふさわしいアルバムだ。(M.H.)

大萩康司 25th Anniversary Best ~音が紡いだ25年~
大萩康司(g)
〈録音:2000~2016年〉
[Fine Arts Music(D)FAMCD0002(2枚組)]
30代のムーティが一気呵成に駆け抜けた「チャイコフスキー交響曲全集」SACD化
1970年代のムーティはホント聴き甲斐がある。もちろんフィラデルフィア時代、スカラ座時代もそれぞれに面白いんだが、1974年の《アイーダ》全曲録音に始まったフィルハーモニア管との録音の数々は、どれも濃厚で勢いがある。その《アイーダ》以降《仮面舞踏会》《マクベス》《ナブッコ》と次々レコーディングを果たしたムーティは、確固たる信念を持っていわばキャリアの背骨を形成し、そうしたオペラで体得したドラマ性とカンタービレが、当盤のチャイコフスキーに十全に活かされ、まさにユニークにしてスタンダードな交響曲全集が出来上がったのでは。そもそも南イタリアのナポリに生まれたムーティ(ちなみにアバドもシャイーも北のミラノ)によるロシア音楽なんてミスマッチの最たるものかと思いきや、ここまで充実した演奏になり得たのは、彼が専心したヴェルディの歌謡性、抒情性がチャイコフスキーにも共通している、ということなのかも。約半世紀前にこんな交響曲全集があった、というのを今一度ここで噛みしめたい。(Y.F.)

チャイコフスキー:交響曲第1番《冬の日の幻想》*、第2番《小ロシア》,第3番《ポーランド》,第4番,第5番,第6番《悲愴》,マンフレッド交響曲,ピアノ協奏曲第1番,幻想序曲《ロメオとジュリエット》
リッカルド・ムーティ指揮フィルハーモニアo,ニュー・フィルハーモニアo*,アンドレイ・ガヴリーロフ(p)
〈録音:1975年2月*~1981年7月〉
[ワーナー・クラシックス(S/D)2173296713(5枚組)]SACDハイブリッド
【メーカーページはこちら】
徳永二男と秋山和慶と、ハチャトゥリアンの青い春
最近は演奏や録音の機会をあまり聞かないけれど、昭和の日本では、ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲は定番レパートリーの1つだったようだ。当盤のライナーノートにある文章「徳永二男と秋山和慶 青春の記念碑」によれば、1971年までに10種の国内盤がリリースされていたという。その時代、この作品に挑んだのが24歳の徳永二男、30歳の秋山和慶だった。オケは自主運営時代の東響。帯の「若かりし」や先の「青春」の触れ込みどおり、パワフルに超絶技巧を輝かせるソロとオケは、青い。それが、作品が秘めている野趣とすこぶる相性がいい。旧盤を聴けていないが(今回が初CD化とのこと)、リマスターでくっきり鮮やかになったと思しき音像は、かなり生々しく迫ってくる。併録のサン=サーンスも凄まじい演奏。当盤にはボーナス・トラックとしてビゼーの《アルルの女》組曲が入っていて、こちらのオケは東フィルの演奏。教科書の鑑賞教材として録音されたものらしい。(H.H.)

ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲
〔+サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ,ジョルジュ・ビゼー:《アルルの女》第1組曲&第2組曲*〕
徳永二男(vn)秋山和慶指揮 東京so,東京po*
〈録音:1970年9月~74年9月〉
[ビクター(タワーレコード)(S)NCS88044]SACDハイブリッド
20世紀の邦楽器音楽を知るための手引き
十七絃箏(十七弦箏)は1921年に宮城道雄が考案した楽器。それまでの箏と決定的に違うのは音域で、低音部が四絃分広げられている。楽器史としては、この盤にも登場する二十絃箏や、二十五絃箏といった発展形も生まれていった。今回リイシューされたこの盤は、箏の名手・宮越圭子が演奏した、十七絃箏の手引きとなるもの。収録楽曲で最も古いのは1965年の牧野由多可《風》、新しいのは92年の吉松隆《なばりの三ツ》だから、現代邦楽ブーム真っ只中に生まれた古典たちが中心的に選ばれている。どれも純邦楽のイディオムから離れつつ叙情的、と同時に「現代音楽」めいた、ひけらかすような音響を避けている。端正ながらも凄味のある演奏は、これら作品群のリファレンスとしても貴重だ。低音部分を際立たせる曲が目立つ一方で、長沢勝俊《四つの前奏曲》での中~高音部の静謐、新実徳英《プレリュード》の清新が、今日までの十七絃箏のありかたを示唆しているようにも思える。(H.H.)
関連記事:《春の海》だけじゃない! 宮城道雄にまつわるディスク5選(2026.01.02更新)

十七弦箏の世界
〔牧野由多可:十七絃独奏による主題と変容《風》,中島靖子:十七弦独奏のための《四つの即興曲》,長沢勝俊:四つの前奏曲,佐藤敏直:十七絃のためのファンタジー,吉松隆:なばりの三ツ,新実徳英:プレリュード*〕
宮越圭子(十七絃箏)山田明美(二十弦箏)*
〈録音:2005年6月〉
[ライヴノーツ(D)WWCC8046]
【メーカーページはこちら】
明快で見通しの良い音で蘇るバルビローリのシベリウス
バルビローリ&ハレ管によるシベリウス交響曲全集に管弦楽曲集を加えたSACDハイブリッド6枚組が発売された。本盤は、2020年にStudio Art & Sonがバルビローリ全集のために作成した24bit/192kHzリマスター音源をもとに、パリのCircé StudioがSACDように新たにDSDリマスタリングが行なったものである。バルビローリのシベリウスは、旧EMI時代にもシングルレイヤーSACDやハイブリッド盤として発売され、その後、タワーレコード企画のハイブリッド盤も登場した。今回は旧EMI時代の旧盤との比較試聴を行なったが、新盤は一聴して音の分離が明快で、全体の見通しが良いのが特徴であり、旧盤と比べると、各パートがより立体的に浮かび上がってくる。また音色については、新盤は明るく活気に富んだ響きが特長だが、これは旧盤よりわずかに音量レベルが高いことも影響しているかもしれない。一方で旧盤は、比較するとやや沈んだ響きで、全体に暗めの音色と感じられるが、これはこれで好む人もいるかもしれない。(M.K.)

シベリウス/交響曲全集,管弦楽作品集
〔交響曲第1~7番,交響詩《フィンランディア》,《カレリア》組曲,交響詩《ポヒョラの娘》,付随音楽《ペレアスとメリザンド》より,他〕
ジョン・バルビローリ指揮ハレo
〈録音:1966~70年〉
[ワーナー・クラシックス(S)2173297734(6枚組)]SACDハイブリッド
【メーカーページはこちら】
シンフォニックでスケール豊かな最新リマスタリング
メータ&ロサンゼルス・フィルによる《惑星》が、タワーレコード企画のSACDハイブリッド盤として登場した。本作は定番タイトルゆえ、これまでに何度もSACD化されてきた印象があるが、実のところ2013年発売のシングルレイヤーSACD(廃盤)以来、久々のSACD化となる(海外盤では2017年にAnalog Productionsのハイブリッド盤が出ていた)。今回はそのシングルレイヤー盤と比較試聴を行なった。シングルレイヤー盤はシャープで明晰な音質を持つ一方、やや線の細さが感じられ、もう少し響きの厚みや膨らみが欲しいところがあった。これに対して本盤は、音像に立体感が備わり、作品が求めるシンフォニックなスケールを十分に引き出しており、最新リマスタリングの成果を実感できる。(M.K.)

ホルスト:組曲《惑星》,ジョン・ウィリアムズ:《スター・ウォーズ》組曲
ズービン・メータ指揮ロサンゼルスpo
〈録音:1971年4月,1977年12月〉
[デッカ(タワーレコード)(D)PROC2481]SACDハイブリッド
Text:編集部

