最新盤レビュー

韓国期待の新人コ・ヨンギョンの意欲作
「ショパンとシュニトケの前奏曲」

ディスク情報

ショパンとシュニトケの前奏曲
〔シュニトケ:5つの前奏曲とフーガ(1954),ショパン:24の前奏曲〕

コ・ヨンギョン(p)
〈録音:2022年5月,6月〉
[AudioGuy(D)AGCD0179]
1月21日発売予定

シュニトケで博士号を取得した知性派による演奏

近年韓国から優れたピアニストが次々と出てきているが、ここにまた期待の新人が登場した。ソウル大学とミシガン州立大学で学んだコ・ヨンギョンで、主に韓国やアメリカで演奏活動を展開するほか、YouTubeをとおして多数のファンを獲得しているという。このたびシュニトケとショパンの前奏曲集を収録した彼女のファースト・アルバムが韓国のオーディオガイ・レコードからリリースされた。

彼女がデビュー・アルバムにシュニトケを選んだのには理由がある。彼女はシュニトケの研究家であり、シュニトケの作品に関する論文でソウル大学の博士号を取得しているのだ。シュニトケの音楽への共感はこの《5つの前奏曲》の演奏にも如実に現われており、ベーゼンドルファー290インペリアル(かつてチョン・ミョンフンが所持していた楽器とのこと)から明晰で清澄な響きを引き出しつつ、ロマン的な叙情や近代的な響きなどさまざまな要素が入り混じるシュニトケ独特の音世界を的確に描き出していてとても魅力的。締めくくりの〈フーガ〉もテクスチュアをくっきりと浮かび上がらせながら、この曲について彼女自身が述べる「抽象的で哲学的な雰囲気」(解説書掲載のインタビューより)を巧みに醸し出している。

一方ショパンの《24の前奏曲》では、第1曲のややアクの強いアゴーギクからして、彼女独自のショパンの世界を打ち出そうという姿勢が感じられる。テンポの設定や揺れ、ダイナミクスの変化に細かい工夫がみられ、ひとつひとつの曲が何かの物語を語っているかのよう。そうした細部のこだわりゆえに、流れの停滞を感じる場面もあるし、時にやや気負いすぎている印象を受けるところもなくはないが、それもよい意味での若さの現われだろう。彼女みずから「このディスクは自分の人生で新しい始まりの導入部、コ・ヨンギョンという演奏者のプレリュード」と位置付けており、これからさらに広く世界で翔こうというコ・ヨンギョンの表現意欲が示された演奏である。今後の彼女の活躍をおおいに期待したい。

                            寺西基之 (音楽評論)
                            協力:東京エムプラス

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