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ドラマティックに描くシベリウス。交響曲全集完結編

ディスク情報

シベリウス:交響曲第6番,同第7番, 劇付随音楽《テンペスト》 (抜粋)

サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮エーテボリso
〈録音:2022年5月,2024年〉
[ALPHA(D)NYCX10513]

動きの少ないはずの音楽から渾々と溢れ出る湧水のような流動感を引き出す

サントゥ=マティアス・ロウヴァリとエーテボリ交響楽団によるシベリウスの交響曲全曲録音が当盤と共に完結した。20世紀を席巻したロマンティックなシベリウス像からも、また神秘的な佇まいを思わせぶりに作り込む演出とも距離を置いたロウヴァリは、どの作品を採り上げても細部の隅々にまで活き活きとした生命感を吹き込んで、実に個性的かつ説得力の高いシベリウスを聴かせてくれた。そのスタイルは、当盤においても変わらない。

第6番は透明感あふれる音響美を振りまく第1楽章序奏からすでにユニークだ。楽譜にある強弱の交替を克明に描きつつ、動きの少ないはずの音楽から渾々と溢れ出る湧水のような流動感をロウヴァリは引き出す。これはひとつには管弦楽書法に込められた音色の出し入れを明確に音にして瞬間ごとの情報量を高めているからであり、またフレーズの切れ目や挿入される休符の前後での音の切り上げ方を注意深く整えているからであり、そして何より、ほとんど気づかれないほどに前掛かりなビートを合奏に課すことで、強い推進力を生み出しているからだろう。このスタイルは全曲を通じて一貫していて、かつ全体の構成や細部どうしのバランスにも十分に気を配られているために、古典派的な性格の第6番をドラマティックな構成を持つ音楽として再創造し得ているのが秀逸である。

第7番も負けず劣らず動的な音の流れのほとばしる演奏に仕上がっている。ロウヴァリは細部を明快に隈取りつつ、どこか一部が突出しないように常に立体的な音響構築に気を配っていく。その上でテンポの動きや振り幅の大きい強弱を、クライマックスに至る道程を十分に意識して作り込むことで、骨太な流れを織り上げていく点に、この人の卓越したセンスがうかがえる。

併録の劇音楽《テンペスト》は第2組曲を、終曲のみを省略して全曲収録する。演奏はやはり色彩やリズムのメリハリを強く打ち出して、気持ちよく聴けるものとなった。

                           相場ひろ(フランス文学)

                           協力:ナクソス・ジャパン

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