ここでは、最近発売されたリイシュー&BOX盤のなかから注目盤を厳選して紹介します。
- ポリーニ18歳の輝かしきショパン《練習曲》全曲!
- ランパル初来日時のモーツァルトがSACDで甦る!
- シュタルケル生誕100年 バッハ&コダーイの名盤がSACDに
- オーストリアの名ホルン奏者H.アンゲラーの至芸
- 『オリジナル・ソース・シリーズ』第7弾 4タイトル
- クレンペラーのベートーヴェン「ピアノ協奏曲全集」「第九交響曲」他が続々SACD化
- アバドの1960~70年代の名演が高音質で蘇る
- スメタナ《売られた花嫁》全曲、1962年の名録音がSACDで復活
- 日本歌曲のトランペット・カヴァーは空前絶後
- かつて聴いた水晶は原石だったのかもしれない
- 前衛・現代音楽の開拓者、ロンドン・シンフォニエッタの原点
- “幻の演奏家”の放送録音が一挙に発掘
ポリーニ18歳の輝かしきショパン《練習曲》全曲!
名ピアニスト、マウリツィオ・ポリーニが1960年の第6回ショパン国際ピアノコンクールで優勝し、一躍スターダムにのし上がったのは有名な話だが、その直後に録音したショパン《練習曲集》全曲は長らくお蔵入りしていた。2011年になって本人の許諾を得てテスタメントから初めて発売されたが、そこに刻まれていたのはグラモフォンから発売された名盤の誉れ高き1972年録音とは一味違った、若い勢いが感じられるものだったのだ。ポリーニというと「完全無欠」なテクニックで知られていて、1972年録音もそうした完璧さとともに「怜悧」な印象を与えるものだったが、1960年録音のこのディスクには「熱さ」がある。録音当時発売を許可しなかったのは、本人はその熱さが気になったのかもしれない。オリジナル・テープを基にSACD化された本ディスクと1972年盤を聴き比べて、違いを確かめたい。(T.O.)
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ショパン:12の練習曲集 op.10&25
マウリツィオ・ポリーニ(p)
〈録音:1960年9月〉
[Warner Classics(S)2173248288(海外盤)]SACDハイブリッド
※日本語解説付き
ランパル初来日時のモーツァルトがSACDで甦る!
20世紀を代表する大フルーティストのジャン=ピエール・ランパル(1922~2000)が、読売新聞社の招聘で初来日を果たしたのが1964年のこと。その際に、日本コロムビアで録音したモーツァルトの協奏曲が復刻された。カップリングの《アンダンテ》は1970年来日時に録音された小品集からの選曲。いずれもオリジナル・アナログ・マスターテープからていねいにリマスターされており、臨場感満載。この2年後にテオドール・グシュルバウアー指揮ウィーン交響楽団で再録音(エラート)しているとはいえ、音質の優秀さでは日本コロムビア盤の方が優っていることを、このSACD化によって確かめたい。なお、当時のライナーノーツから吉田雅夫によるエッセイ「ランパル讃」が転載されている。エピソード満載で味わい深い。「黄金のフルート」壮年期の貴重な記録だ。(T.O.)
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モーツァルト:フルート協奏曲第1番,同第2番,アンダンテ ハ長調
ジャン=ピエール・ランパル(fl)ウィリー・シュタイナー指揮読売日本交響楽団,山岡重信指揮東京コンサート・オーケストラ
〈録音:1964年4月,1970年6月〉
[タワー×コロムビア(S)TWSA1181]SACDハイブリッド
※タワーレコード限定
シュタルケル生誕100年 バッハ&コダーイの名盤がSACDに
ヤーノシュ・シュタルケル(1924~2013)の生誕100年を記念して、彼が1950年代後半に旧EMIへ録音した無伴奏曲がまとめて発売された。バッハの組曲は全曲の初レコーディングで(1951年に第2番と第5番を除いた録音があった)、第4番と第6番のみステレオ録音、コダーイは3度目の録音だ(モノラル)。両曲とも別の録音(バッハは3度目の1963年録音のマーキュリー盤、コダーイはピーター・バルトークによる2度目の1950年録音)が有名だが、このディスクもフリッツ・ライナー率いるシカゴ交響楽団首席奏者を務めた(1959年にソリストに転じる)30代半ばのシュタルケルを刻印した魅力的なもの。矢澤孝樹氏によるライナーノーツのタイトルは「怒りと響き」。シュタルケルの特徴をよく表しているではないか。SACD化によって、さらにリアルさが増しているのもうれしい。(T.O.)
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J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲,コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ
ヤーノシュ・シュタルケル(vc)
〈録音:1957年~59年〉
[タワー×ワーナー(M)(S)TDSA304(2枚組)]SACDハイブリッド
※タワーレコード限定
オーストリアの名ホルン奏者H.アンゲラーの至芸
チロル生まれのハンスイェルク・アンゲラー(1955~)は、ホルンとナチュラルホルンを中心に、狩猟ホルンなど幅広い楽器で妙技を聴かせるオーストリアの名手。ヘルマン・バウマンにも師事しており、ホルンとナチュラルホルンのソリストとして国際的な評価を受けている。また、ベルンハルト・クロル(1920~2013)やフリッツ・ケル(1927~2018)などの現代作曲家が彼のために作品を書いている。録音も数多く、特に2006年に録音したモーツァルトのホルン協奏曲(ディスク1)は高い評価を得ている。このボックスセット最大の魅力は、モダンホルン、ナチュラルホルン、そして狩猟ホルンを自在に駆使し、独奏からアンサンブルまで、ホルンの魅力が愉しめること。ディスク9では、ザルツブルク・ウインド・フィルハーモニックを指揮してクラシックの名曲を披露している。(T.O.)
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ハンスイェルク・アンゲラーの芸術―モーツァルトから現代作品まで
ハンスイェルク・アンゲラー(ナチュラルhr,hr,狩猟hr)他
〈録音:1979年~2023年〉
[Gramola(S)(D)GRAM99286(9枚組,海外盤)]
『オリジナル・ソース・シリーズ』第7弾 4タイトル
音質の“激変”が大評判を呼んでいる、ドイツ・グラモフォンの『オリジナル・ソース』シリーズの第7弾4タイトルが発売された。今回もオリジナルの4トラック1/2マスターテープまで遡り、デジタル処理を一切介さずにリミックスとカッティングを行なっている。このシリーズは、70年代以降のマルチトラックのマスターが残っている音源が対象になるが、今回もそれぞれ素晴らしい音質に仕上がっている。
ティルソン・トーマスのチャイコフスキー《冬の日の幻想》とベームのモーツァルト《レクイエム》について既出のCD盤と比較したが、前者はCDでも十分に優秀な音質であるものの、今回のLPは、CD以上にSN比が良好である点に驚いた。CDではマスキングされていたホールの暗騒音がはっきりと(ホールの外を走る自動車の音まで)聞き取れ、ホールトーンの中にオーケストラが立体的に浮かび上がる。「陰気な土地、霧の土地」と名付けられた第2楽章は絶美……この録音のハイライトだ。後者は、CDではウィーン国立歌劇場合唱団の劇的な(物々しいと言っても良い)歌唱が、すべてを覆い尽くさんばかりのバランスで収録されており、それがこの演奏の性格まで規定してしまっていたのだが、今回のLPではオーケストラ、合唱、独唱、オルガンが適切なバランスでリミックスされ、あらためてこの名盤の真価を問う結果となっている。(M.K.)
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チャイコフスキー:交響曲第1番《冬の日の幻想》
マイケル・ティルソン・トーマス指揮ボストンso
〈録音:1970年3月〉
[DG(S)4866718(海外盤)]180g重量盤LP
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モーツァルト:レクイエム
カール・ベーム指揮ウィーンpo,ウィーン国立歌劇場cho,エディット・マティス(S)ユリア・ハマリ(A)ヴィエスワフ・オフマン(T)カール・リッダーブッシュ(Bs)
〈録音:1971年4月〉
[DG(S)4866720(2枚組,海外盤)]180g重量盤LP
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マーラー:交響曲第6番《悲劇的》
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンpo
〈録音:1975年1月,2月,1977年2月,3月〉
[DG(S)4866710(2枚組,海外盤)]180g重量盤LP
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スクリャービン:交響曲第4番《法悦の詩》,チャイコフスキー:幻想序曲《ロメオとジュリエット》
クラウディオ・アバド指揮ボストンso
〈録音:1971年2月〉
[DG(S)4866716(海外盤)]180g重量盤LP
クレンペラーのベートーヴェン「ピアノ協奏曲全集」「第九交響曲」他が続々SACD化
クレンペラーのステレオ(セッション)録音に、例えばマーラー《夜の歌》(1968年録音)やモーツァルト《フィガロの結婚》全曲(1970)のような極端に遅いテンポの「晩年様式」的な印象が強い人がどのくらいいるか分からないが、仮にそのイメージのまま今回SACD化された3点(8枚分)に挑むと、そうした先入観が見事にくつがえされる。ベートーヴェン《第九》セッション&ライヴは1957年、メンデルスゾーン《スコットランド》は1960年だから必ずしも最晩年の録音ではないんだけれど、1967年のピアノ協奏曲全集にしても、予想外に生き生きとして瑞々しい(バレンボイムも含めて)鮮烈な演奏に驚かされる。これぞ最新リマスター効果、SACD化の恩恵と言うべきか。蛇足ながら《第九》スタジオ録音に併録されている《エグモント》に、ほんの5分ほど登場するビルギット・ニルソンのリリカルな歌唱を隠れた聴きどころとして挙げておく。 (Y.F.)
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ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集〔第1番~第5番《皇帝》〕,合唱幻想曲
ダニエル・バレンボイム(p)オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニアo他
〈録音:1967年10月~11月〉
[ワーナー・クラシックス(S)2173244918]SACDハイブリッド3枚組
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ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱》,劇音楽《エグモント》抜粋
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニアo,同cho,オーセ・ノルドモ=レーヴベリ(S)クリスタ・ルートヴィヒ(Ms)ヴァルデマル・クメント(T)ハンス・ホッター(Bs)ビルギット・ニルソン(S)
〈録音:1957年11月,第九の同年同月のライヴを併録〉
[ワーナー・クラシックス(S)2173244443]SACDハイブリッド3枚組
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メンデルスゾーン:交響曲第3番《スコットランド》同第4番《イタリア》,序曲《フィンガルの洞窟》,劇音楽《夏の夜の夢》より
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニアo,同cho,ヘザー・ハーパー(S)ジャネット・ベイカー(Ms)
〈録音:1960年1月~2月〉
[ワーナー・クラシックス-タワーレコード(S)TDSA301~2]SACDハイブリッド2枚組
アバドの1960~70年代の名演が高音質で蘇る
クラウディオ・アバドの1960~70年代のベルリン、ロンドン、シカゴでの名録音がSACD化、特にマーラー《復活》は、明らかに格段に音質が向上しているのが聴き取れる。また、マーラーの交響曲にせよ、ラヴェルの協奏曲にせよ、アバドには(アルゲリッチにとっても)再録音があり、それらに上書きされることで旧録音が忘れ去られていく傾向もなくはないが、こうしたアナログ時代の録音のリイシューは、昨年没後10年を迎えたアバドの再評価・再発見には絶好の機会になる。アバドはかつて「ジョージ・セルのレッスンに “個性を消す” プログラムがあった」と回想していたが、例えば指揮棒を振り下した瞬間に即イタリア風になるムーティとは対照的に、アバドは特にドイツ系スラヴ系の音楽において、とにかくまずはイタリア性を消すことに腐心していたのではないかと感じることがある。そうした冷徹な(もちろん良い意味で)音楽作りが、今回のSACD化によって、より明確になったかも知れない。 (Y.F.)
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マーラー:交響曲第2番《復活》
クラウディオ・アバド指揮シカゴso,同cho,キャロル・ネブレット(S)マリリン・ホーン(Ms)
〈録音:1976年2月〉
[グラモフォン-タワーレコード(S)PROC2417]SACDハイブリッド2枚組
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プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番,ラヴェル:ピアノ協奏曲,ショパン:ピアノ協奏曲第1番,リスト:ピアノ協奏曲第1番
マルタ・アルゲリッチ(p)クラウディオ・アバド指揮ベルリンpo,ロンドンso
〈録音:1967年5月~6月,1968年2月〉
[グラモフォン-タワーレコード(S)PROC2418]SACDハイブリッド2枚組
スメタナ《売られた花嫁》全曲、1962年の名録音がSACDで復活
よくぞこれだけの豪華キャストを集めて、この珠玉のオペラ《売られた花嫁》を録音してくれたことに、そしてよくぞこの渋め(?)の作品を復刻(SACD化)してくれたことに、まずは感謝。当録音の4年後に急逝してしまうヴンダーリヒの最盛期の輝かしい声、スペインの名花ローレンガーの端正でリリックな表現、「黒い声」とも形容された悪役専門のフリックのコミカルな演唱、彼ら名手たちの個性を万全に生かすべく黒衣に徹したケンペの好サポートと、今もって当曲最高の名盤ではないか。チェコのオペラなのだからドイツ語歌唱というのは邪道、という向きもあるかもしれないが、なぜかこの作品にはスウィトナー盤(未CD化)やルネ・コロ主演盤などドイツ語版の名盤が多い。スメタナが生を受けた当時ボヘミアの日常語はドイツ語だったわけで、それはそれで故なきことではない、と言うのは少々こじつけ、かな。 (Y.F.)
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スメタナ:歌劇《売られた花嫁》全曲(ドイツ語版),《売られた花嫁》~序曲と3つの舞曲
ルドルフ・ケンペ指揮バンベルクso,RIAS室内cho,ロイヤルpo,ピラール・ローレンガー(S)フリッツ・ヴンダーリヒ(T)ゴットロープ・フリック(Bs)ジークリンデ・ヴァーグナー(Ms)マルセル・コルデス(Br)他
〈録音:1961年1月~4月,1962年5月~10月〉
[ワーナー・クラシックス-タワーレコード(S)TDSA306~7]SACDハイブリッド2枚組
日本歌曲のトランペット・カヴァーは空前絶後
ドクシツェル(1921~2005)はウクライナに生まれた、ボリショイ劇場首席奏者としての活躍で知られるトランぺッターだ。メロディアへの録音も膨大。さらに教育者の顔があって、教則本も書いている。かつて『日本抒情歌集』(VIC28062やVDC510)と銘打たれた、このリイシュー盤に収められている曲は、彼がみずから選んだという。その演奏は、いい意味でトランペットとは思えない。いろいろの楽器の音が浮かぶ超絶技巧を、流麗にやってのける。さらに謙虚で上品だ。しっかりと「日本のうた」が聴こえる。ステージ上の立ち回りも、とても品格高かったと聞く。自分はトランペット吹きではないのに、あまりの凄演に絶望してしまった。ここまで残酷なわらべうたがあっていいものか。彼にはどんな《ふるさと》が見えていたんだろう? ライナーノート(ロシア語/英語)には、彼による「もっと広まるべきレパートリーだ」という言葉が。ドクシツェルの挑戦状には、今なお、トゲがある。(H.H.)
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ティモフェイ・ドクシツェル/トランペットによる日本叙情歌集
〔すべて宮本良樹の編曲による瀧廉太郎:花,中田章:早春賦,山田耕筰:赤とんぼ,他〕
ティモフェイ・ドクシツェル(tp) セルゲイ・ソロドヴニク(p)
〈録音:1981年6月〉
[Melodiya x Obsession(S)SMELCD1002707]
かつて聴いた水晶は原石だったのかもしれない
Definition Seriesにワイセンベルクがやってきた。オリジナル・テープから電子データを起こし、SACD/CD層それぞれのためにリマスタリングを実施、場合によっては再カップリングするというシリーズ。このディスクに集結した録音も、元は3曲バラバラだった。ワイセンベルク(1929-2012)は、隠遁生活や闘病のために活動期間は短いながら、クリスタル・タッチと呼ばれる、硬く透きとおった音を紡いだピアニスト。さっそくソロの《前奏曲》と《展覧会の絵》から聴いてみる。ワイセンベルクといえばマットな録音で、あまり色気のないイメージだったけれど、これは熱っぽく聴こえるようになっていて興味深い! ついでピアコンを聴いてみる。こちらはすこしリマスタリングの思想が違いそうだ。彼の軽いタッチがバーンスタインの重たいタクトと、不思議と相性のいい名盤、その印象は同じ。大きい変化は解像感で、細かな水晶の粒立ちが、いっそう磨かれキラキラしていた。(H.H.)
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ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番,他
〔ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番,前奏曲嬰ハ短調,ムソルグスキー:組曲《展覧会の絵》〕
アレクシス・ワイセンベルク(p) レナード・バーンスタイン指揮フランス国立o.
〈録音:1971年6月~1979年9月〉
[TOWER RECORDS DEFINITION SERIES(S)TDSA303]
前衛・現代音楽の開拓者、ロンドン・シンフォニエッタの原点
1968年にデイヴィッド・アサートンが設立した前衛・現代音楽専門(?)アンサンブル、ロンドン・シンフォニエッタの最初の目的は、シェーンベルクの室内交響曲第1番を演ることだった。アサートンは2024年に80歳になった。それを祝して作られたこの大人しい見てくれの紙箱に、シェーンベルクを磁場とする、色とりどりのバカテク録音が豊富に収められた。各スリーヴにはオリジナルジャケがプリントされていて、オーマンディ&フィラデルフィア管(参考記事)に負けず劣らず個性的。初めてCD化される室内交響曲第1番やストラヴィンスキー《アゴン》、ジェラールの作品集はもちろん、ソリストにニコレとホリガーを招いたつよつよ布陣、リゲティの《フルートとオーボエのための二重協奏曲》も聴きのがしてはいけない。そして重要なのはモーツァルトやシューベルト、シュポアといったレパートリーだ。新作に相対する彼らの姿勢が、「古典音楽」へのそれと地続きだと思い知ることになるだろう。(H.H.)
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ウィーン~モーツァルトからシェーンベルクまで
〔モーツァルト:セレナード第10番K.361《グラン・パルティータ》,シェーンベルク:室内交響曲第1番,ストラヴィンスキー:アゴン,リゲティ:フルートとオーボエのための二重協奏曲,他〕
デイヴィッド・アサートン指揮ロンドン・シンフォニエッタ
〈録音:1973年10月~1980年5月〉
[Australian Eloquence(S)4847297(13枚組,海外盤)]
“幻の演奏家”の放送録音が一挙に発掘
過去の放送音源を中心に丁寧な復刻で知られるメロ・クラシックからエディト・パイネマン(1937~2023)とアリーヌ・ヴァン・バレンツェン(1897~1981)の放送音源をまとめたBOXが発売された。パイネマンは一昨年亡くなったドイツのヴァイオリニストで、正規録音としてはグラモフォンでのドヴォルザークの協奏曲があるくらい(加えて、セル&シュヴァルツコップの〈あした〉のヴァイオリン・ソロ!)。レコード業界では長い間、“幻のヴァイオリニスト”であったのが、近年になって放送音源が多数発掘され、その魅力が広く知られるようになった。今回は主要な協奏曲に加えて、モーツァルトやシューベルトの室内楽録音が一挙に復刻され(ステレオ録音も多数!)、彼女のディスコグラフィがさらにヴァラエティ豊かになったことを寿ぎたい。アメリカ出身でフランスで活動したピアニスト、アリーヌ・ヴァン・バレンツェンについては、さらに“幻度”が高く、正規録音はSP時代にいくつかある程度であった。ジャン=フィリップ・コラールやカツァリスの師として知られるだけに、後年はパリ音楽院での教職に専念していたかのように錯覚するが、この度、50年代~70年代の音質良好な放送音源が多数発掘され、その演奏活動の一端を知ることができるのは僥倖である。(M.K.)
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エディト・パイネマン – ラジオ・アーカイヴ・エディション
〔ベートーヴェン,シベリウス,J.S.バッハ,ブラームス,ハイドン,チャイコフスキー,メンデルスゾーン,シューマン/ヴァイオリン協奏曲,他〕
エディト・パイネマン(vn)ヘルマン・ヒルデブラント指揮ベルリン放送so,他多数
〈録音:1958年~1990年(一部L)〉
[Melo Classic(M,S)MC2059(9枚組,海外盤)]
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アリーヌ・ヴァン・バレンツェン – ラジオ・アーカイヴ・エディション
〔ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3~5番《皇帝》,ラフマニノフ:同第2番,チャイコフスキー:同第1番,グリーグ:同,サン=サーンス:同第2番,他〕
アリーヌ・ヴァン・バレンツェン(p)ウジェーヌ・ビゴー指揮フランス国立放送so,他多数
〈録音:1956年~1975年(一部L)〉
[Melo Classic(M,S)MC1080(9枚組,海外盤)]
Text:編集部