
2027年に没後200年を迎える作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1826)。レコード芸術ONLINEではそのカウントダウン企画第1弾として、2025年夏に「2つのベートーヴェン・イヤー」を実施、1970年代の名盤をふりかえりました。
【特別企画・巻頭言】2つのベートーヴェン・イヤーとその時代(無料コンテンツです)
カウントダウン企画の第2弾「モノラル録音期のベートーヴェン」では、1950年代以前の名盤に注目します。
今回の記事はピアノ・ソナタ録音の、モノラル期と現代の比較。指揮者ハンス・フォン・ビューローが「音楽の新約聖書」と呼んだこの曲の演奏のされかたは、昔と今で、どのように違っているのでしょうか。新野見卓也さんによる執筆です。
Text=新野見卓也(ピアニスト・音楽評論)
ベル・エポックの薫りと、2つの金字塔
1939年にイギリスで製作された映画『月光の曲 Moonlight Sonata』では、ベートーヴェンの名曲が若いカップルを結ぶよすがとなる。筆者にはこの映画に映像作品としての評価を与えることはできないが、イグナツィ・パデレフスキの演奏する姿を後世に伝えている点には大きな意味があろう。80歳に差し掛かろうかという老境にあって、背筋を伸ばしてピアノに向かい合う姿は彼の人生の背後にある歴史の重みを感じさせさえする。
モノラル期の録音を聴くたのしみが、19世紀の伝統、ベル・エポックの空気を知る音楽家の芸術にふれることであるなら、パデレフスキの演奏する《月光》ソナタ【ディスク1】は、その目的を十分に果たしてくれよう。即興的なルバートやデュナーミクの変化がいかにもロマンチックで、この演奏がオール・ショパンのプログラムに紛れていたとしても違和感はあるまい。
《月光》は作品の性格上、そのようなアプローチを受け入れる。おなじくポーランドのイグナツ・フリードマンの同曲の演奏【2】もまた、薫り高い名演といえよう。第2楽章などまるでシューマンの小品のように可憐に、リストの言葉どおり「ふたつの深淵のあいだ」にひっそりと息づいている。
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