特別企画
【Editor’s Column】オペラ馬鹿のレコード古地図

レコードならでは―オペラ全曲盤の “妄想人事異動”

文=編集部(Y.F.)

バレンボイム指揮《ドン・ジョヴァンニ》
ルーデル盤《リゴレット》左:シルズ,右:クラウス

高市早苗自民党新総裁が選出され、さっそく党内人事が固まったようだが、さてお次は首班指名はどうなる?官房長官は誰が?外務大臣は?と、まだ当分の間は、日本中の皆が政治評論家、あるいは総(野次馬)人事部長になって「勝手に人事異動」祭りが続く。クラシック音楽界隈でも、〇〇交響楽団の、あるいは〇〇歌劇場の音楽監督が辞任、となるや、ならば後継は誰?と皆さん人事の話題は大好物。オペラだと、例えばプレミエ演目に《カルメン》が挙がったとしたら、ヒロイン役は誰が?相手役は?と関心が集まる。

レコードで聴くオペラ、に話を移すと、その《カルメン》なら「〇〇の全曲盤のホセ役は最高だが、肝心のヒロインがイマイチ、エスカミリオはまぁ合格点だからカルメンだけ入れ替えたい」等々、これもまた言ってみれば音盤上の “人事異動”。オペラは指揮者で聴く、あるいは演出を観る、という方もいらっしゃるでしょうが、やっぱりオペラは歌手にこだわって、という多くのファンは常に「オペラ・プロデューサー」として “人事” を語りたくなる。クラシックのレコードを聴く最大の楽しみは「聴き比べ」にある、とよく言われるが、登場人物が多いオペラの場合、歌手の聴き比べを始めると、比較要素は5倍6倍に。それが「オペラに完璧なレコードはない」とも言われる所以で、歌手の出来不出来、好みに合う合わないもあって、まずは全てのレコードを聴いてみないと気が済まなくなる。

《カルメン》に関しては、5月の特別記事「150年目の《カルメン》名盤選挙」を配信中なので、ぜひそちらもご覧いただくとして、今回は数多あるオペラの中からほんの一例として、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》とヴェルディ《リゴレット》で “人事異動ゲーム” を妄想してみようかと。もちろんオペラはアンサンブルなので「この役はこの人」なんて分解するのは邪道だし、交響曲を楽章ごとに異なる指揮者で聴いてみる、というのならともかく、ひと繋がりのオペラで音源を接ぎ合わせるなんて無茶なのは百も承知で、ちょっとした脳内の妄想、次の内閣の顔ぶれを予想するゲームといった感じでご覧いただきましょう。《ドン・ジョヴァンニ》も《リゴレット》も全曲盤は山ほどあるので、今夏の好評特別企画「2つのベートーヴェン・イヤーとその時代」に倣って、元ネタ音源は「レコード大豊穣時代」とも言える1970年代(一部60年代)のアナログ・セッション録音の中から選んでみた。

■モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》架空の人事異動(※=出典レコード)
【ドン・ジョヴァンニ】ロジェ・ソワイエ ※バレンボイム指揮イギリス室内o〈1974〉[EMI]より
 シエピ以降、最高にノーブルでエレガントな “貴族” ドン・ジョヴァンニ!
【レポレッロ】ジョゼ・ファン・ダム ※マゼール指揮パリ・オペラ座o〈1978〉[Sony]より
 ちょっとトボけた独特の味が魅力の “プチインテリ” の従者
【騎士長】マティアス・ヘレ ※ゲンネンヴァイン指揮ルートヴィヒスブルク祝祭o〈1978〉[EMI]より
 名前の通り(ヘレ Hölle=地獄)地の底から響いてくる威厳ある声のバス
【ドンナ・アンナ】エッダ・モーザー ※マゼール指揮パリ・オペラ座o〈1978〉[Sony]より
 《魔笛》の夜の女王役も得意とした濃厚で確固たる技術が身上のプリマ
【ドン・オッターヴィオ】ヴェルナー・クレン ※ボニング指揮イギリス室内o〈1968〉[Decca]より
 超ウィーン風だが、そのとびきりの美声はヴンダーリヒの真の後継者!
【ドンナ・エルヴィーラ】シルヴィア・シャシュ ※ショルティ指揮ロンドンpo〈1978〉[Decca]より
 かなり異色のエキセントリックなモーツァルトだが一度聴いたらクセになる
【ツェルリーナ】ミレッラ・フレーニ ※C.デイヴィス指揮コヴェント・ガーデン歌劇場o〈1973〉[Decca]より
 《ボエーム》のお針子ミミもいいけど、素朴な田舎娘役をやらせたらピカイチ
【マゼット】アルベルト・リナルディ ※バレンボイム指揮イギリス室内o〈1974〉[EMI]より
 フィアンセのツェルリーナとセットでこの役はやっぱイタリア人じゃないと
【指揮】カール・ベーム ※ウィーンpo,ウィーン国立歌劇場cho〈1977(L)〉[DG]より
 何だかんだ言って、モーツァルトのオペラはベームに始まってベームに終わる

■ヴェルディ《リゴレット》架空の人事異動(※=出典レコード)
【リゴレット】ローランド・パネライ ※モリナーリ=プラデッリ指揮ドレスデン国立o〈1977〉[Acanta]より
 最も “人生の悲哀” を感じさせる道化役といえばパネライの右に出る人はいない
【マントヴァ公爵】アルフレード・クラウス ※ルーデル指揮フィルハーモニアo〈1978〉[Warner]より
 高音の輝かしさ、歌唱スタイル、そして外見すべてにおいてパーフェクト!
【ジルダ】ベヴァリー・シルズ ※ルーデル指揮フィルハーモニアo〈1978〉[Warner]より
 薄幸の娘としてはちょっと芯が強い声だがコレでいいんです
【スパラフチーレ】マルティ・タルヴェラ ※ボニング指揮ロンドンso〈1971〉[Decca]より
 超ド級の風体とドスの利いた声はまさに殺し屋そのもの
【マッダレーナ】エレーナ・オブラスツォヴァ ※ジュリーニ指揮ウィーンpo〈1979〉[DG]より
 殺し屋の妹役としては存在感十分の劇場に響き渡る声のメゾ
【指揮】クラウディオ・アバド ※ミラノ・スカラ座o、同cho〈19??〉
 周知の通りアバドは《リゴレット》も《椿姫》も振らなかったが、妄想ゲームの締めとして

マゼール指揮《ドン・ジョヴァンニ》
パネライ主演の《リゴレット》

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