
芸術の秋、マーラーの秋、駆け抜けろザッハリヒ! マーラー演奏の、メインストリームならざる世界へようこそ♪
ひとくちにクラシック音楽を聴くのが好きといっても、苦手はあるもの。それは現在、レコード芸術ONLINEで特別企画シリーズを組んでいる作曲家グスタフ・マーラーも同じだと思われます。
今回、広瀬大介さんにマーラー入門ディスクガイドをご執筆いただきました。マーラー録音の有名どころに多い「陶酔型」とは一線を画す、ドライなマーラーの数々。苦手な方こそハマるかもしれませんし、もともと好きな方も、こっちの方が好き!となるかもしれませんよ。
Select & Text=広瀬大介(音楽学)
「陶酔型」になじめない人のための、純粋マーラー入門
このお題[編注:マーラー入門者向けディスク10選]を頂いたときに真っ先に思ったのです。「そもそもレコ芸ONLINEの有料会員読者で、マーラーを聴かない、あるいは苦手なひとなんているんだろうか?」と(苦笑)。まあ、どちらも一定数はいるからこそこういうご依頼を頂いたのだとは思うのですが、きっとそういう読者の皆さんは自身が積み重ねてきた音楽遍歴の中で、相応の理由をもって「マーラーを聴かない or マーラーは苦手」という結論にたどり着いたと思われるので、「入門者向け」と銘打ってはいても(掲載媒体が媒体だけに)、なおさら今回のお題はハードルが高いと感じます。
翻って自分の若き日のことを考えてみるに、マーラーの音楽を苦手と感じた瞬間はまったくないのですが、どこか自分と相容れない世界の住人だな、という気持ちは抱いていたように思います。なんなら、いまでも少し思っているかもしれません。私は「音楽は世界の表現媒体にすぎない」と言わんばかりな、ザッハリヒなリヒャルト・シュトラウス系統の考えに共感しているので(それは皆さまもよくご存じでしょうが)、音楽の中に自身の苦しみも悩みも溶かし込んで、それらを宇宙規模でまるごと昇華しようとするマーラーの音楽観・世界観は、どこか醒めた目で見ていると思います。
おそらく、マーラーの伝道者と呼ばれるような(いわゆるユダヤ人系列と見做される)解釈者たちは、そうした作曲家の世界観に同調し、みずからを重ね合わせ、マーラーの苦しみを我が苦しみとすることで、その特異な世界観を聴き手に伝えようとしたのでしょう。タイプこそ違えど、ブルーノ・ワルターとレナード・バーンスタインはそのような指揮者の双璧と呼んで差し支えないと思います。
逆に、そのような(敢えて強い表現を使うことをお赦し頂きたいのですが)ある種の「押しつけがましさ」が、マーラーの音楽そのものへのアプローチを妨げてしまうひとを生んでいるのならば、そのふたりの音盤を封印して、純粋に音楽そのものへアプローチしようと試みる指揮者・オーケストラの演奏を紹介すれば、よりフラットな心境でマーラーにも接することができるのではないか。そんな観点で音盤を選んでみました。自分自身が陶酔型の解釈に「どこかついていけない」と感じるメンタリティの持ち主なので、同じようなタイプの読者の皆さまには、あるいはお薦めできる音盤かな、とは思います。
10選、ということなのですが、10曲の交響曲に大地の歌を加えてしまったので、プラス1曲ということでなにとぞ御容赦ください……。
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