
インタビューは、2025年10月16日、大田区民ホール・アプリコ楽屋にて行われた
現代を代表するマーラー指揮者といえば? 2016年にマーラー国際指揮者コンクールで優勝を果たして以来、快進撃を続けるカーチュン・ウォンさんはその1人といえるでしょう。日本フィルハーモニー交響楽団と取り組んでいるマーラー・シリーズ、そして今秋、ハレ管弦楽団との交響曲第2番《復活》のCDをリリースしたことにも注目が集まっています。
2025年10月、ウォンさんにインタビューする機会を得ました。得意とするマーラーのこと、指揮者の仕事のこと、そして録音物を世に出すこと……。マエストロの音楽観に迫ります。ききては舩木篤也さんです。
Interview & Text=舩木篤也(音楽評論)
通訳=井上裕佳子
Photo=編集部

マーラーとのこれまで
ウォンさんはマーラー演奏に、並々ならぬ力を入れておられますね。私にも忘れられない演奏があり、とくに日本フィルハーモニー交響楽団との「首席指揮者就任披露演奏会」[編注:2023年10月の第754回東京定期演奏会]で演奏された交響曲第3番は衝撃的でした。ディテールをファナティックなまでに追求しつつ、表現上、ときに誇張も辞さない。ほかにも、第6番・スケルツォ楽章でのティンパニの最強打、同じく首席指揮者を務めておられるハレ管弦楽団との第2番《復活》ライヴ録音では、冒頭4小節目でのアッチェレランドなど、細かい例を挙げればきりがありません。
カーチュン・ウォン(以下KW) 私の努力をよく汲み取ってくださり、ありがとうございます。マーラーに限りませんが、スコアがすべてです。作曲家の意図に生命を注ぐのです。《復活》の冒頭に関して言えば、テンポを変えない演奏もありますし、その方が簡単ですが、アッチェレランドとある。ここから速くするのか? 遅く始めて速めるのか? たんに印象が残ればいいのか? 「解釈」をする必要があります。それが5年後には、まずい選択だったと思うかもしれないとしてもです。日本フィルとの第3番は、私も特別だったと思います。1時間半にもわたって「物語」を語るわけで、リハーサルではディテールの仕上げに時間を費やしますが、演奏会では全体のラインを考えなければなりません。

カーチュン・ウォン Kahchun Wong
シンガポール生まれのカーチュン・ウォンは、2023年より日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者、そして2024年秋にサー・マーク・エルダーの後任として英国の名門オーケストラ、ハレ管弦楽団の首席指揮者兼芸術顧問に就任。2025年夏、英国タイムズ紙が「最高となる五つ星を超えた六つ星に値する」と絶賛したハレ管弦楽団とマーラー交響曲第2番《復活》でのBBCプロムスへの鮮烈なデビューは記憶に新しい。
2016年マーラー国際指揮者コンクールでの優勝以来、ウォンはクリーヴランド管弦楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとする世界有数のオーケストラに客演。
現代作曲家と異文化対話の積極的な推進者としてタン・ドゥン、細川俊夫、ナロン・プランチャルーンらの作品を取り上げ、またムソルグスキー《展覧会の絵》を五種類の中国民族楽器とオーケストラのためウォン自身が再構築・指揮している。
プロフィールの詳細はこちら(クリスタル・アーツのページ)

【CD】マーラー:交響曲第5番
カーチュン・ウォン指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
〈録音:2021年12月(L)〉
[日本コロムビア(D)COCQ85588]
・日本フィル第736回東京定期演奏会のライヴ録音
・定価3,300円(税込)
・詳細はこちら(日本コロムビアのページ)
・レコード芸術「新譜月評」(評者は金子建志、満津岡信育の各氏)はこちらの100~101頁
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【CD】マーラー:交響曲第2番《復活》
カーチュン・ウォン指揮 ハレ管弦楽団,ハレ合唱団,ハレ・ユース合唱団,マサバネ・セシリア・ラングワナシャ(S)サラ・コノリー(Ms)
〈録音:2025年1月(L)〉
[Halle(D)CDHLD7568JP(2枚組)]
・オープン価格
・詳細はこちら(東京エムプラスのページ)
・レコード芸術ONLINE「新譜月評」(評者は相場ひろ、広瀬大介の各氏)はこちら
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【配信】シベリウス:ヴァイオリン協奏曲*,マーラー:交響曲第5番
カーチュン・ウォン指揮 日本フィルハーモニー交響楽団,服部百音(vn)*
〈収録:2025年5月(L)〉
[Member’s TVU CHANNEL×日本フィル]
・日本フィル第409回名曲コンサートのライヴ収録映像
・1,100円(税込)。視聴期間は購入から3ヶ月
・販売期間:~2025年11月24日(月・祝)
・詳細はこちら(テレビマンユニオンのページ)
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【配信】マーラー:交響曲第6番《悲劇的》
カーチュン・ウォン指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
〈収録:2025年9月(L)〉
[Member’s TVU CHANNEL×日本フィル]
・日本フィル第773回東京定期演奏会のライヴ収録映像
・1,100円(税込)。視聴期間は購入から3ヶ月
・販売期間:~2026年3月11日(水)
・詳細はこちら(テレビマンユニオンのページ)
【2021/2022シーズン】
第736回東京定期演奏会
2021年12月10日(金)、11日(土) サントリーホール
[出演]オッタビアーノ・クリストーフォリ(tp:ソロ・トランペット)
[曲目]アルチュニアン:トランペット協奏曲,マーラー:交響曲第5番
・マーラー:交響曲第5番のディスクはこちら(日本コロムビアのページ)
第740回東京定期演奏会
2022年5月27日(金)、28日(土)サントリーホール
[出演]務川慧悟(p)*,三宅理恵(S)**
[曲目]伊福部昭:ピアノと管絃楽のための《リトミカ・オスティナータ》*,マーラー:交響曲第4番ト長調**
【2023/2024シーズン】
第754回東京定期演奏会~首席指揮者就任披露演奏会~
2023年10月13日(金)、14 日(土)サントリーホール
[出演]山下牧子(Ms),harmonia ensemble(女声合唱),東京少年少女合唱隊(児童合唱)
[曲目]マーラー:交響曲第3番

第754回東京定期演奏会の様子 ©山口敦(提供:日本フィル)
第760回東京定期演奏会
2024年5月10日(金)、11日(土)サントリーホール
[曲目]マーラー:交響曲第9番
【2024/2025シーズン】
第768回東京定期演奏会
2025年3月7日(金)、8日(土)サントリーホール
[出演]吉田珠代(S),清水華澄(Ms),東京音楽大学(合唱)
[曲目]マーラー:交響曲第2番《復活》


第768回東京定期演奏会の様子 ©山口敦(提供:日本フィル)
第149回さいたま定期演奏会
2025年5月24日(土) ソニックシティ
第409回名曲コンサート
2025年5月25日(日)サントリーホール
[出演]服部百音(vn)
[曲目]シベリウス:ヴァイオリン協奏曲,マーラー:交響曲第5番
・サントリーホール公演の配信はこちら(テレビマンユニオンのページ)
【2025/2026シーズン】
第773回東京定期演奏会
2025年9月12日(金)、13日(土)サントリーホール
[曲目]マーラー:交響曲第6番《悲劇的》
・配信はこちら(テレビマンユニオンのページ)

第773回東京定期演奏会の様子 ©山口敦(提供:日本フィル)
【2025/2026シーズン】
第779回東京定期演奏会
2026年4月10日(金)、11日(土)サントリーホール
[出演]森谷真理(S),メゾソプラノ(Ms),テノール(T),バリトン(Br),晋友会合唱団(合唱)
[曲目]ベートーヴェン(マーラー編曲):交響曲第9番《合唱》
・一般発売 2026年1月20日(火)
・「第779回東京定期演奏会」の詳細はこちら(日本フィル2026-2027シーズン定期のPDF)
70周年記念特別演奏会
2026年6月21日(日)、 22日(月)サントリーホール
[出演]船越亜弥,吉田珠代,三宅理恵(S),花房英里子,中島郁子(A),宮里直樹(T),青山貴(Br),加藤宏隆(B)
[曲目]マーラー:交響曲第8番《千人の交響曲》 変ホ長調
・一般発売 2026年3月18日(水)
・「70周年記念特別演奏会」の詳細はこちら(日本フィルのページ)
マーラーの音楽にはどう親しんでこられましたか? 音楽史的に順を追ってというふうに?
KW 私は、故国がシンガポールですから、クラシック音楽とはあまり縁のない世界で育ちました。ただ、トランペットをやっていましたので、マーラーは知っていました。部分的にでも。逆にハイドンやベートーヴェンには、トランペット音楽があまり無いので、興味が持てなかった。より過去の音楽には、今になって興味を持つようになりましたね。
マーラーのどんな点に魅かれますか? いま演奏することの今日的な意義は何でしょう?
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