
Yuna plays Liszt~光と闇~
〔リスト:エステ荘の噴水,イゾルデの愛の死,ラ・カンパネッラ,メフィスト・ワルツ第1番,乙女の願い(ショパン「6つのポーランドの歌」より),愛の夢第3番,別れ,《ノルマ》の回想〕
田母神夕南(p)
〈録音:2025年5月〉
[JK arts(D)JKCD0001(海外盤)]
※9月5日発売予定
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リストへの深い愛と、冷静な眼差し
JK artsの自主レーベル第1弾は、田母神夕南のリスト・アルバムである。
田母神は、東京音楽大学大学院を修了後、ハンガリーとイタリアで研鑽を積んだ。ピティナ・ピアノコンペティション特級で同賞を受賞し、注目を浴びた。室内楽にも意欲を注ぎ、セシリア国際音楽コンクール室内楽部門などでも優勝を重ねているピアニストだ。
このアルバムは、田母神にとってデビューCDとなる。タイトルは「Yuna plays Liszt~光と影~」。リストを得意とする彼女の、「私にとってかけがえのない、大切な作品」が収録されている。
奇を衒わない誠実な音楽づくり、そして作品そのものを語らせていく姿勢が心に残る。リスト作品では、スケールの大きさやヴィルトゥオジティを強調したパフォーマンスか多いなか、田母神の演奏はテンポ設定も自然で、気品に満ちあふれている。彼女は、作曲家の心象風景を美しくまとめ上げていく。それを実現しているのは、彼女の見事な演奏テクニックである。
アルバム冒頭は《エステ荘の噴水》。心地よい音楽の流れの中で、こまやかなペダリングによって多彩なサウンドを生み出し、様々な水の表情を繊細に表出していく。水面に映し出される陽光の優しい煌めきに、田母神の豊かな感受性をうかがうことができる。続く《イゾルデの愛の死》も、声高に愛を主張するような演奏でない。田母神は、モティーフの対話を丁寧に表出し、曲の終結において消えゆく生命の灯を美しく描き出す。《ラ・カンパネラ》では、細やかな音の一つひとつを共鳴させ、その中から浮かび上がるメロディを歌曲のように綿々と歌い上げた。リストがピアノ編曲した「ショパン《6つのポーランドの歌》」からは〈乙女の願い〉を選曲。ショパンの淡い詩情を引き立てながら、生き生きとしたリズムを弾ませる。そして「《ノルマ》の回想」。難曲として知られるこの作品でも、壮麗でドラマティックな演奏で、聴く者をこのオペラの世界へといざなっていく。 リストへの深い愛とともに、田母神の作品全体を俯瞰する冷静な眼差しを聴くことができる。
道下京子 (音楽評論)
協力:東京エムプラス