
ピエール・ブーレーズ(1925~2016)生誕100年を迎える今年2025年。レコード芸術ONLINEでは、あらためてその音楽にふれるためのガイドを作るべく、この稀代の指揮者&作曲家の関連企画を展開します。
今回は、満津岡信育さんによる、ブーレーズの十八番であるストラヴィンスキー《春の祭典》の録音の数々についてです。
Text=満津岡信育(音楽評論)
ブーレーズにとっての《春の祭典》とは?
ブーレーズは、1950年代前半に「ストラヴィンスキーは生きている」という論考を通じて、《春の祭典》という楽曲が、原始主義的な音響を野放図に放射するのではなく、きわめて緻密なリズム構造に基づいていることを明らかにしていた。従って、指揮者として、《春の祭典》を取り上げる際には、リズムに留意しているのが特徴的である。それは、スコアを機械的に正確に再現するだけではなく、リズム細胞が、さまざまに変奏されていく「リズム変奏」のほかにも、オスティナートで進行していく声部に、不規則に伸縮する動機を重ねて、複数のリズム・パターンが追いかけ合ったり、重なり合ったりする、一種の「リズム対位法」を強く意識している点に及んでいる。また、フェルマータ記号が付されている音符に対しては、音を任意にのばすという本来のあり方を踏まえた上で、そのフレーズが別のリズムの逆行系になっていると捉えた場合、きちんと長さを計算して正確にのばしている点にも、ブーレーズのこだわりが発揮されている。

が収められた「ブーレーズ作曲家論選」
(笠羽映子訳、ちくま学芸文庫)
《春の祭典》は、ブーレーズのトレード・マークともいえる勝負曲であり、フランス国立放送管との商業録音②は、指揮者としてのブーレーズの出世作となった。クリーヴランド管との1回目の録音③は、世界各国でレコード賞を獲得。同管との2回目の録音④は、ブーレーズのDG専属契約の第1弾として発売された。
ブーレーズの場合、基本的な解釈にブレはなく、ここで紹介した4点以外にも、フランス国立管を指揮した1989年7月のミラノでのライヴ録音盤[スペクトラム・サウンド]、グスタフ・マーラー・ユーゲント管を指揮した1997年8月のザルツブルク音楽祭でのライヴ録音盤[DGのザルツブルク音楽祭Box所収]でも、一貫したアプローチを繰り広げている。また、どの録音でも、ブーレーズは、〈いけにえの踊り〉ラスト近くの弦楽セクションの合いの手を、通常の形とは異なり、敢えてピツィカートで演奏している点も興味深い。
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