初演150年《カルメン》祭り特別企画
初演150年《カルメン》祭り

初演150年特別記事《カルメン》の名盤&名歌手 スピンオフ編
名コンビで辿るオペラ “連想ゲーム”(編集部)

好評配信中の特別記事『150年目の《カルメン》名盤選挙』『《カルメン》を彩った名歌手 “万国博”』の「スピンオフ編」として、過去《カルメン》の名盤に登場した名歌手たちの、様々な名録音を辿ります。カルメンとドン・ホセ(あるいはホセとミカエラ、カルメンとエスカミーリョ)の名コンビが、他の名作オペラで共演しているディスクをいくつか集めてみました。※取り上げる多くのLP/CDは現在廃盤となっており、掲載のジャケット写真のディスクには入手困難なものも含まれます。

1980年代に一世を風靡した、とも言えるカルメンとホセのコンビがアグネス・バルツァホセ・カレーラス。カラヤン/ベルリン・フィルのスタジオ録音(1983年)とレヴァイン/メトロポリタン歌劇場のライヴ映像(1987)があるが、この二人はその他、やはりカラヤンの《アイーダ》《ドン・カルロ》など共演が多いが、ここでは《カルメン》とほぼ同じ人物構図で(カレーラスがバルツァにメロメロになる?)同じフランス・オペラの傑作サン=サーンス《サムソンとデリラ》を挙げる(1989年コリン・デイヴィス指揮、Philips)。カレーラスがらみでもう一点、カラヤンの《カルメン》でホセ&ミカエラのコンビを組んだカティア・リッチャレッリとの共演。歌唱も見映えも初々しい二人の美しいジャケットも懐かしいプッチーニ《ボエーム》を(1979年C.デイヴィス指揮、Philips)。

1970~80年代のもう一組のカルメン&ホセのコンビが、エレーナ・オブラスツォヴァプラシド・ドミンゴで、C.クライバー指揮ウィーン国立歌劇場ライヴ映像(1987)が発売されてからは「鉄板」となっている。断トツに録音が多いドミンゴは、あらゆるソプラノ、メゾと共演しているとも言えるが、上に挙げた《サムソンとデリラ》(1978年バレンボイム指揮パリ管、DG)、マスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》(1981年プレートル指揮スカラ座、ゼッフィレッリ制作のオペラ映画)の他に、マスネ《ヴェルテル》(1979年シャイー指揮WDR響)、ヴェルディ《アイーダ》(1981年アバド指揮スカラ座)《リゴレット》(1979年ジュリーニ指揮ウィーン・フィル、以上DG)等々オブラスツォヴァとは特に相性が良かったようだ。

少々時代を遡って、ニコライ・ゲッダ(今年が生誕100年!)にフィーチャーしてみると、彼はビクトリア・デ・ロス・アンヘレス(1959年ビーチャム指揮)とマリア・カラス(1964年プレートル指揮)の2種類の《カルメン》全曲盤でホセ役を務めており、昔からドン・ホセの理想の歌唱として挙げる人も多い。ロス・アンヘレスとの共演盤ではまずはグノー《ファウスト》、オッフェンバック《ホフマン物語》が代表格だが、隠れた名盤として《ヴェルテル》(1968~69年プレートル指揮、EMI)を挙げよう。カラスとの共演ではプッチーニ《蝶々夫人》(1955年カラヤン指揮スカラ座、ワーナー)のピンカートンがこの役の最高の歌唱で、当オペラのスタジオ録音でもカラスの相手役としてベストな人選だったのでは。

続いて、ミカエラとホセのコンビに焦点を当ててみると、1964年カラヤン指揮ウィーン・フィル盤で共演しているミレッラ・フレーニフランコ・コレッリから。フレーニはこの後2度(1970、1988)スタジオ録音でミカエラを歌っているが、やはり1960年代の声は瑞々しくて素晴らしい。コレッリとはロンバール指揮のグノー《ロメオとジュリエット》(1968年、EMI)でも共演、どこまでもヒロイックなコレッリの輝かしい声と、ひたむきなフレーニのレッジェーロの声の対比が楽しい。カラヤン指揮ベルリン・フィルとの《オテッロ》(1973年、EMI)では、3年前《カルメン》のホセ役だったヴィッカーズと再共演、こちらはいよいよリリコに成熟し始めたフレーニの旬が味わえる。

オペラあるある話としてこんなのがある。ウィーンのような日替わりで出し物がある歌劇場では、主役歌手が急病などで降板した場合、代役が見つからないと演目自体を替えてしまう、とういう例が稀にある。《カルメン》で言えば、タイトルロールがいなければ、急遽ミカエラをヴィオレッタに仕立てて《椿姫》をやってしまおう、てな具合。上に挙げたクライバー指揮《椿姫》はもちろんセッション録音なので降板云々は関係ないが、1977年アバド指揮《カルメン》とはベルガンサ以外の主要3役ドミンゴ(ホセ)イレアナ・コトルバス(ミカエラ)ミルンズ(エスカミーリョ)が共通で、いわば《カルメン》マイナス・ワンのキャスティング。この《椿姫》(1976年、DG)は今さら多言無用の天下の銘盤ですね。エスカミーリョに関してもう一人、ルッジェーロ・ライモンディに注目してみると、1980年デルヴォー指揮の映像では、ベルガンサのカルメンと共演、この二人はマゼール指揮モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》(1979年、Sony)のタイトルロールとツェルリーナで、「Là ci darem la mano」の二重唱が、カルメンとエスカミーリョにしか聴こえない。

最後は歴史的な名録音を2点。1959年のNHKイタリア歌劇団第2次公演《カルメン》では、ジュリエッタ・シミオナートマリオ・デル・モナコ、ガブリエッラ・トゥッチ(ミカエラ)といったドリーム・キャストが揃った(イタリア語上演)。シミオナートとデル・モナコはそれぞれ別々にいくつかの《カルメン》全曲盤があるが、この二人が共演した銘盤となればマスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》(1960年、Decca)。指揮もセラフィンと鉄壁の構えだ。右のトスカニーニ指揮の《椿姫》(1946年、RCA)は、1951年ライナー指揮の《カルメン》マイナス・ワン、すなわちカルメンのリーゼ・スティーヴンズを除いた3人ーージャン・ピアース(ホセ/アルフレード)リチア・アルバネーゼ(ミカエラ/ヴィオレッタ)ロバート・メリル(エスカミーリョ/ジェルモン)がここに集結、歴史的名唱を刻んでいる。

選・文=編集部(Y.F.)

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