ショスタコーヴィチがアツい特別企画
没後50周年

ショスタコーヴィチの名演奏家
その2・旧西側編
満津岡信育

 今年2025年はドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906~1975)没後50年です。レコード芸術ONLINEでは、あらためてその音楽にふれるためのガイドを作るべく、この20世紀を代表する作曲家に関する企画「ショスタコーヴィチがアツい」を展開していきます。
 今回は、音楽評論家の満津岡信育さんによる「ショスタコーヴィチの名演奏家・旧西側編」です。作曲者本人と知り合いではなくとも、彼のスコアを深く読み込んで名演を残した演奏家を紹介します。増田良介さん執筆の旧東側編と合わせてお読みください。

Select & Text=満津岡信育(音楽評論)

旧東側の演奏家とは異なるスタイルの名演の数々

当初、ソヴィエトが生んだモダニストとして、ワルターやストコフスキーも手掛けたショスタコーヴィチの場合、アメリカの楽団のシェフでは、ロジンスキ、クーセヴィツキー、ピッツバーグ響時代のライナーが、戦前から好んでレパートリーに入れ、戦時中には、第7番《レニングラード》のアメリカ初演権をめぐって、トスカニーニストコフスキーが激しく競ったことが知られている。クーセヴィツキーとライナーに学び、ロジンスキのもとで副指揮者を務めたバーンスタインは、自らが調性に固執した作曲家ということもあり、スコアから独自の解釈を引き出し、ソ連楽旅の際には、ショスタコーヴィチ本人とも会っている。このほかに、著名指揮者では、第10番しか指揮しなかったカラヤンも、作曲者が臨席した演奏会で絶賛を博した。もちろん、ショスタコーヴィチ本人と知り合いではなくとも、彼のスコアを深く読み込み、旧東側の演奏家とは異なるスタイルの名演を繰り広げた演奏家は数多くいる。ここでは、西側におけるショスタコーヴィチの演奏史の中で、重要なディスクを挙げさせていただいた。

なお、古くから上田仁が種を蒔き、アマチュア合唱団がオラトリオ《森の歌》を好んで歌った時代があった日本は、今や世界に冠たるショスタコーヴィチ大国である。井上道義が各地の楽団と気概に満ちた名演を披露し、古典四重奏団が秀逸な弦楽四重奏曲全集をリリースしていることは、読者諸兄もご存知の通りである。

交響曲第4番、チェロ協奏曲第1番を西側で初録音
ユージン・オーマンディ(Eugene Ormandy 1899~1985)

作曲者隣席のもとでロストロポーヴィチとチェロ協奏曲第1番を演奏したオーマンディは、当セット所収の第4番をはじめ、後のRCA時代には第15番も西側の指揮者として、いち早く手掛けている。確かなアンサンブルと鮮やかなダイナミクスによる演奏は、作曲者のオーケストレーションの妙を巧みに捉えており、のびやかな美しさに満ちている。

オーマンディ・コンダクツ・ショスタコーヴィチ
〔交響曲第4番、第1番*、第5番**、第10番***、チェロ協奏曲第1番*他〕

ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団,ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(vc)
〈録音:1963年,1959年*,1965年**,1968年***〉
[ソニー(S)SICC1590~92(3枚組)]※廃盤

メーカーページはこちら

独特な読みユニークな解釈
レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein 1918~1990)

ニューヨーク・フィルとのソ連楽旅で大成功を収めた直後の録音。『証言』以前に、第5番が《革命》と呼ばれていた時代の代表盤で、苦悩から歓喜へと至る過程がダイナミックに描かれている。バーンスタインは、この後も、ソニーとDGに第1、第5~7番、第9番、第14番を商業録音しており、独特な読みを通じてユニークな解釈を繰り広げている。

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック
〈録音:1959年〉
[ソニー(S)SICC10268]SACDハイブリッド

メーカーページはこちら

作品が備えている西欧的な感覚と手法を鋭く表出
ベルナルト・ハイティンク(Bernard Haitink 1929~2021)

西側の指揮者による、初めての交響曲全集であり、『証言』の内容が反映された解釈が刻み込まれている点でも話題になった。ハイティンクは、楽曲の内容に即して、第4番や第13番では、遅めのテンポを設定し、かっちりとしたアンサンブルで、フレーズやアクセントを明晰に処理して、作品が備えている西欧的な感覚と手法を鋭く表出している。

ショスタコーヴィチ:交響曲全集,管弦楽曲集,チェロ協奏曲第1番 他

ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団,アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(現ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)他
〈録音:1978~1984年〉
[デッカ×タワーレコード(S)(D) PROC2229~39(11枚組)]

このコンテンツの続きは、有料会員限定です。
※メルマガ登録のみの方も、ご閲覧には有料会員登録が必要です。

【有料会員登録して続きを読む】こちらよりお申込みください。
【ログインして続きを読む】下記よりログインをお願いいたします。

0
タイトルとURLをコピーしました