
2025年7月7日開催、アジア・ツアー(中国→韓国→日本)真っ只中の、ジョナサン・ノット & スイス・ロマンド管弦楽団(以下、OSR)の記者会見へ行って参りました。来日公演は、実に6年ぶり。公演の概要だけでなく、バーチャル録音プロジェクトのプレゼンテーションも行われました。その模様を、ダイジェストでお伝えします。
極東の「故郷」に響け、フランス語の音楽
今回の来日を「故郷に帰ってきたような感じ」と喜ぶ音楽監督のジョナサン・ノットは、取材陣へ、気さくにツアーへの意気込みを伝えてくれた。
ノット OSRの音楽監督に就任してから、しばらく経ちました。その間には数回のオペラ上演もありました。オペラにかぎらず、言語の感覚は、音楽の感覚に影響を与えるものだと考えています。OSRにはフランス語話者が多いです。[同じく音楽監督を務める]東京交響楽団とは違った音楽をお届けできると思います。フランス語の、ストラヴィンスキー《春の祭典》をぜひ聴いてみてください。

ノット プログラムには、東京交響楽団で演奏したことのない、スイスの作曲家による作品もあります。たとえば、オネゲルの交響的運動第2番《ラグビー》はスポーツのラグビーを「聴いている」ような作品で、ぜひ皆さんに魅力を知ってほしいです。私はローティーンの頃、ラグビーのクラブに入っていましたが、本当にリアルです。
また、今回のツアーではチェリストの上野通明、ヴァイオリニストのHIMARIとの共演も気になるところ。ここでも「言語感覚」の相互作用が起きるかもしれない。
ノット ソリストの上野通明さんとは一度ジュネーヴで共演したきりで、HIMARIさんには初めて会います。ルールはお互いに把握しているのに、結果がわからない。タンゴを踊るようなものです。このような新しいソリストとの出会いもまた、ツアーの醍醐味だと思っています。

スイス・ロマンド管が拓く、新・レコード芸術!
また、OSRゼネラル・マネージャーのスティーヴ・ロジャーから、楽団の代表として、ツアーの聴きどころと、新プロジェクトについての説明もあった。
ロジャー 今回の来日公演ではさまざまなプログラムを演奏しますが、とくに《春の祭典》は、ぜひ聴いていただきたいものです。

ロジャー OSRは1950年代に、初めてステレオ録音をしました。そして2025年、初めてのバーチャル録音を試みています。3ヶ月前に始まったばかりのプロジェクトです。すでにノットさんと私たちで、ベートーヴェンの交響曲第3番《英雄》と、ロッシーニの《ウィリアム・テル》序曲をレコーディングしています。
ノット 私は、音楽は耳で聴くものと思っていますので、最初はこのプロジェクトに消極的でした。しかし、結果をみて考えが変わりました。このバーチャルホールは、音楽家どうしのエネルギーの流れを感じ取ることができる、素晴らしいものですよ!
Virtual Hall®(バーチャルホール)
OSRが開発した、新たな音楽再生ツール。VRヘッドセットを被ることで、自分がステージの上にいる感覚を味わえる。配布資料によれば、「ユーザーを交響楽団の内部に没入させる体験を提供」するとしている。
ロジャー これからVRプロジェクトを拡大していきますが、CDのリリースもあります。ディーター・アマン作品のスタジオ初録音で、ヨーロッパ地域に先駆けて、日本を含むアジア地域でのリリースを予定しています。

閉会後、「バーチャルホール」の体験会が開かれ、編集子も参加した。奏者の表情や視線を360度の視界で追えるのが面白く(収録場所の、ヴィクトリア・ホールの天井や床までよく見える)、マエストロの横、ティンパニの前など、6種類ある地点の全パターンを試してみた。肝心の音は、ヘッドセットの内蔵スピーカーのものだったのでよく分からなかったが、別途でイヤホンなどを用意することで、より没入できるのだと思う。


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【ジョナサン・ノット指揮、スイス・ロマンド管弦楽団 日本公演2025】
2025/7/8(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール[プログラムA]
2025/7/9(水)19:00 サントリーホール[プログラムB]
2025/7/11(金)19:00 京都コンサートホール[プログラムC]
2025/7/12(土)15:00 とりぎん文化会館 梨花ホール[プログラムD]
2025/7/13(土)15:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール[プログラムB]
プログラム A
オネゲル:交響的運動第2番《ラグビー》
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番 (チェロ: 上野通明)
ストラヴィンスキー:バレエ《ペトルーシュカ》(1911年版)
プログラム B
ジャレル:ドビュッシーによる3つのエチュード
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調(ヴァイオリン: HIMARI)
ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》
プログラム C
W.ブランク:モルフォーシス(日本初演)
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番(チェロ: 上野通明)
ストラヴィンスキー:バレエ《ペトルーシュカ》(1911年版)
プログラム D
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調(ヴァイオリン: HIMARI)
ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》
各公演の詳細はこちらから。
丁寧なタクトと幅広いレパートリーで知られ、日本にもファンの多い、イギリス生まれの世界的指揮者。2012年から東京交響楽団の音楽監督(2026年3月にて任期満了)、14年からスイス・ロマンド管の音楽監督/芸術監督を務めている。また録音も豊富で、当サイトの新譜月評2025年6月号で推薦盤に選出された『ブルックナー:交響曲第7番』は、彼が手兵の東響を指揮したもの。
1918年にエルネスト・アンセルメが創設し、67年までシェフを務めたスイスの楽団。その後サヴァリッシュ、A. ジョルダン、ヤノフスキの時代を経て2014年、ジョナサン・ノットが音楽監督/芸術監督に就任。20世紀フランス・ロシア音楽の名演・名録音の宝庫としても有名。近年は、アーティスト・イン・レジデンスなどの制度を充実させるほか、アウトリーチ活動も盛んに行っている。
Text:編集部(H.H.)