
2025年7月7日開催、落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団『null²する演奏会』の記者懇親会へ行って参りました。2018年4月にスタートした「テクノロジーによってオーケストラを再構築する」コラボレーションの、1つの到達点となる公演です。この記者懇親会の模様を、ダイジェストでお伝えします。
万博のパビリオンと呼応するコンサート
演出の落合陽一が、まずコンサートの趣旨について語った。まず気になるのは名前だ。落合といえば、全面鏡張りの、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン『null²』が話題だが、次のコンサートでも「鏡としての場」を目指しているのだという。
落合 タイトルのnull²(ぬるぬる)とは、僕が万博でも使っている言葉で、仏教用語の空=ない、コンピュータ用語のnull=ゼロをかけた造語です。この言葉が許されたこと自体、大阪ならではというか、東京ではもっと「まじめ」なものになったでしょうね。

落合 日本フィルさんと仕事をするなかで、ヨーロッパ由来のオーケストラを、いま日本でやる意義を、ずっと考えてきました。コンセプトを掘りながら、歴史や民俗芸能も掘っていって……その結果、メディア・アートとオーケストラのコラボレーションの試みとしては、ほかにないほど、歴史・伝統を深めたものを作ってきたと思います。僕たちが精魂込めてつくる舞台を、ぜひ観にきていただきたいです!
落合陽一×日本フィルのプロジェクトは「五感で感じる、身体で聴く音楽」を目指している。コンサートに、聴覚障がい者向けの鑑賞席などが設置されるほか、舞台の視覚面にも要注目だ。プロジェクトに以前から参加してきた映像の奏者、「WOW」は今回も参加する。
近藤 「映像の奏者」ってなんだろう、と思われるでしょう。落合さんが、「いまモーツァルトが生きていたら、映像にも作曲しただろうから」と言ってくださったのが由来です。公演のコンセプトに沿って、文化的な背景を参照しつつ、固着したイメージとは違うものを目指しています。
誰も予想できない(?)いくつもの要素の化学反応
今回のプログラムの前半には、皇太子殿下(当時)ご成婚パレードのテレビ生放送で流された《祝典行進曲》や、ジブリ映画『天空の城ラピュタ』の音楽など、映像に関係する曲目が並んでいる。
落合 劇伴音楽をベースに、広上マエストロと相談しながらプログラミングしました。前回の大阪万博のあった1970年から、2025年までのあいだに日本で書かれた音楽というと、映像の音楽がとくに印象深いためです。

そして後半、作曲家の藤倉大への委嘱新作《Water Mirror》でみられる、能・狂言とのコラボレーションも目玉の一つ。水鏡の名には、水そして鏡をモチーフとする、古典の引用が含められるようだ。
広上 何が起こるのか、自分たちも実は分からない部分が多いです。とにかく丁寧に作り上げていきます。アナログのオーケストラと、デジタルのメディアアート、そして日本の古典芸能の相乗効果で起こる化学反応を、とにかく楽しみにお越しください!
野村 《Water Mirror》には、狂言《田植》からの抜粋が組み込まれています。水と土、いかにも農耕民族という作品です。
馬野 能《野守》からの抜粋もあります。これは鏡が登場する、結構おどろおどろしい作品です。私は、能や狂言は現代の音楽ともばっちり合うと確信しています。

最後に、レコード芸術ONLINE編集部として気になるのは、私たちにとって身近なメディアアート(?)、メディア化などの予定。これまでの公演の記録は日本フィルに保存されていて、いくつかのDVDは自主レーベル(日本フィルのページ)からリリースもされている。今後、どのように発信していくかは「調整中」とのこと。続報に期待したい。
落合陽一×日本フィルプロジェクト VOL.9 『null²する音楽会』
東京公演
8/21(木)19:00開演 サントリーホール
万博公演
8/30(土)15:00開演 大阪・関西万博会場内 EXPOホール「シャインハット」
【主な出演者】
演出・監修:落合陽一
指揮:広上淳一
映像の奏者:WOW
狂言方:野村万蔵
能楽シテ方:馬野正基
【曲目】
團伊玖磨:祝典行進曲
武満徹:映画『ホゼー・トレス』より〈訓練と休息の音楽〉
林光:国盗り物語
菅野祐悟:軍師官兵衛
久石譲:天空の城ラピュタ
坂本龍一:THE LAST EMPEROR
藤倉大:Water Mirror(承前啓後継往開来シリーズ第3弾,委嘱世界初演)
レスピーギ:交響詩《ローマの松》
【クラウドファンディングも実施中】
東京公演にむけてのクラウドファンディングが実施中。詳細はこちらから。
Text:編集部(H.H.)