
音楽学者の伊東信宏さんにはじめてご寄稿いただきました。伊東さんは2016~20年にかけて旧『レコード芸術』誌にて連載「東欧採音譚」をご執筆いただき、この連載は後に音楽之友社から2冊の単行本として刊行されました。今回のテーマはアンビエント・ミュージックの最前線について。ブライアン・イーノが開発したアプリケーションと、レイチェル・ベックレス・ウィルソンがリリースした『アンビエントとワールドミュージックの間くらい』の音源について。レイチェルさんは伊東さんの旧友であり、クルターグ・ジェルジュ研究の第一人者でもあります。
歳のせいか、すこし不眠症気味になって朝3時頃に目が覚める。一旦目が覚めると寝つくことができず、夜明けまでいろんなことを試してみる日が続いた。筆者はそもそも落語(というか人の声)を聞きながらでないと寝つけないという癖があって、もう30年以上もそうしてきたのだが、こういう夜明け前には落語もなんだか重苦しく、音楽はもっと「しんどく」、でも何か音があるといいなと思っていろいろ試しているうちに、ブライアン・イーノとピーター・チルヴァースが十数年も前に発表したというアプリケーションに行き当たった。
Bloom
アンビエントミュージックのパイオニア、ブライアン・イーノとミュージシャンでソフトウェアデザイナーのピーター・チルバーズによって開発されたブルームは、iPhoneとiPod touchのアプリケーションとしては未開の地にその足を踏み入れたと言ってよいでしょう。楽器でもあり、楽曲でもあり、また芸術品でもあるブルームの画期的なコントロール機能によって画面を軽く叩くだけで、誰にでもユニークなメロディーと複雑なパターンを作り出すことが出来ます。アイドル時には自動生成ミュージックプレイヤーが機能し、無限大の可能性で曲とそれに伴うビジュアルを作り出します。(Apple App Storeより引用)
いわゆる「アンビエント・ミュージック」のインタラクティヴ版とでもいえるものだ。画面は薄い青や紫のグラデーションが広がっていて、「アンビエント」的なドローンが聞こえてくる。拍節のない連続的に変化する背景音だ。画面のどこかに触れると、水滴のような音が鳴って、画面は触れたところから色が変わり波紋のように円が広がってゆく。いくつか音を鳴らすうちに音は数秒から数十秒くらいの間隔でループしていて、前に鳴らした音が回帰して結構複雑な音の組み合わせとなってゆく。どんどん音を追加しても良いし、そのまま放置しても良い(それなりに変化してゆく)。
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