【特別寄稿】チュルリョーニスとリトアニア音楽の世界(後編)
――生誕150年を迎えて

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リトアニアの国民的芸術家チュルリョーニスは画家としても作曲家としても重要な業績を遺した。その生誕150年を記念して、2026年3月28日から6月14日まで、東京・上野の国立西洋美術館で「チュルリョーニス生誕150周年記念絵画展」が開催されます。東京・春・音楽祭でもチュルリョーニスの音楽作品やリトアニアの作曲家の作品が紹介されるなど、日本ではまだ広く知られているとは言い難いリトアニア音楽の世界に触れる貴重な機会が増えます。
前編に続き、チュルリョーニスの研究者・布川由美子さんにリトアニア音楽の魅力について寄稿して頂きました。

2026春の上野でリトアニア音楽に触れる

東京・春・音楽祭ではリトアニア音楽の魅力を紹介する公演が予定されている。

まず3月26日に東京文化会館小ホールにおいて、リトアニア室内管弦楽団による演奏会が行われる。指揮とヴァイオリン独奏を務めるのはセルゲイ・クリロフ(日本の笹川音楽財団より、ストラディヴァリウス1710年製ヴァイオリン「カンポセリーチェ」を貸与されている)である。プログラムには、チュルリョーニスの《弦楽四重奏曲 ハ短調》(チェピンスキス編)と《5つの前奏曲》(ソンデツキス編)が含まれ、作曲家の室内楽的な抒情と静かな精神性を弦楽合奏の響きの中で味わうことができる。

セルゲイ・クリロフとリトアニア室内管弦楽団(Photo: D. Matvejev)

さらに同公演では、現代リトアニアを代表する作曲家たちの作品も紹介される。ヴィドマンタス・バルトゥリスの《わたしはシューベルトが好き》は、独奏ヴァイオリンと弦楽オーケストラによる静かな瞑想のような作品であり、終結部ではシューベルトの旋律が引用される。アルギルダス・マルティナイティスの《楽園の鳥たち》やジブオクレ・マルティナイティーテの《魂の風景》より「春」では、音響の広がりや時間の感覚が重視され、リトアニア音楽特有の詩的で内省的な響きが聴き手を深い精神的空間へと導く。

左から ガブリエリウス・アレクナ、マルティナイティーテ、ギエドレ・シュレキーテ(Photo: Ondine)

また4月3日には、東京文化会館大ホールホワイエにてハープ奏者ヨアナ・ダウニーテによるチュルリョーニス作品の演奏会も予定されている。ダウニーテはチュルリョーニスのピアノ作品をハープのために編曲したアルバムをNAXOSからリリースしており(NAXOS 8.579108)、その繊細で透明感のある響きによって、作曲家の内省的な音楽世界を新たなかたちで提示している。前奏曲《アンジェルス・ドミニ》、前奏曲《献呈》、《パストラル》、《子守歌》などの小品は、ハープの音色によっていっそう幻想的な響きを帯び、チュルリョーニスの抒情的な音楽の魅力をあらためて感じさせてくれるだろう。

ヨアナ・ダウニーテのアルバム、「ハープの弦にのせて」

さらに4月16日には、国立西洋美術館講堂において、チュルリョーニスの曾孫でピアニストのロカス・ズボヴァスと妻のソナタ・デヴェイキテ=ズボヴィエネによる「チュルリョーニス・サウンドスケープを追って」と題されたコンサートが開催される。交響詩《森の中で》と《海》のピアノ四手版を中心に、《Sefaa Esec変奏曲》や《前奏曲 イ短調》などが演奏され、作曲家の音楽的想像力の広がりをピアノの響きの中で体験することができる。

チュルリョーニスから現代の作曲家までを一つの流れとして聴くと、リトアニア音楽の特徴が浮かび上がってくる。それは派手な外面的効果よりも、音の静かな広がりや時間の深さ、そして自然や精神世界への感覚を大切にする音楽である。

ヴィリニュスにあるリトアニア国立フィルハーモニーホール(撮影:筆者)

日本での展覧会開催に向けて

数年前、駐日リトアニア大使館の文化担当官であるガビヤ・チェプリョニーテ氏が日本に二度目に着任した際、ちょうどチュルリョーニス生誕150周年が近づいていることから、日本でも展覧会を開催できたらよいのではないかという話になった。もし二回目の展覧会を実現するのなら国立西洋美術館で、という希望もその頃から語られていた。

私自身も展覧会実現に向けた提案書作成などに関わらせていただいたが、その構想が今回実際に形になろうとしていることを大変嬉しく思っている。

今回の展覧会と東京・春・音楽祭の公演は、音楽と絵画という二つの領域を横断したチュルリョーニスの芸術を、立体的に体験する貴重な機会になるだろう。彼の作品が生まれたリトアニアの自然や精神文化に思いを馳せながら、その響きとイメージの世界に耳を澄ませてみたい。

国立西洋美術館 チュルリョーニス展 内なる星図公式サイト

東京・春・音楽祭2026

⇒前編はこちら

布川由美子(ぬのかわゆみこ)

早稲田大学非常勤講師。リトアニア国立カウナス工科大学で日本人初の博士号(PhD)を取得。ロンドン大学ゴールドスミス校修士課程(MMus)修了。チュルリョーニス研究を専門とし、国際学会での発表や楽譜出版・翻訳に携わっている。

ハープの弦にのせて - チュルリョーニス作品集

前奏曲、夜想曲、エレジー、マズルカ、ユモレスク、子守歌、楽興の時 他 全16曲

ヨアナ・ダウニーテ(ハープ、編曲)

NAXOS 8.579108

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