新・リマスター鑑定団特別企画

【前編】ブーレーズ、ランパル、小澤征爾の最新リマスター盤を聴く(新・リマスター鑑定団 第3回)

旧『レコード芸術』誌の人気企画「リマスター鑑定団」の復活第3弾! “お気に入りの名盤を少しでも良い音で聴きたい”と集まった編集部有志とゲストが、リマスター盤を旧盤と比較して、侃々諤々好き放題に語り合います(前編)。

後編(クレンペラー&ジュリーニ)は12月21日(日)公開

――今日はリマスター盤を中心に、5本まとめて聴き比べということで、かなり盛りだくさんです。今回もゲストとして音楽評論家の芳岡正樹さんにご参加頂きます。試聴はブーレーズの《春の祭典》、ランパルとラスキーヌの協奏曲、小澤征爾のディスク、クレンペラーのシューマン《春》、それからジュリーニのドヴォルザークです。LPも含めて、いろいろソースを用意しました。

ブーレーズのストラヴィンスキー《春の祭典》の最新SACD

ストラヴィンスキー:バレエ音楽《春の祭典》(1947年版),同《ペトルーシュカ》(1911年版),同《火の鳥》全曲(1910年版),同《火の鳥》組曲(1911年版)

ピエール・ブーレーズ指揮クリーヴランドo,ニューヨークpo,BBCso
〈録音:1967~1975年〉
[ソニークラシカル(S)SICC10470(2枚組)]SACDハイブリッド

【メーカーページはこちら

――まず、タワー×ソニーのSACDハイブリッド盤のブーレーズのストラヴィンスキー三大バレエから《春の祭典》を聴きます。比較対象として1999年発売の最初期のシングルレイヤーSACD[SRGR712]を用意しました。まずはシングルレイヤーSACDを聴いた感想をどうぞ。

A かなり尖ってますね。とにかくアタックが強くて、金管や打楽器が前に前に出てくる。残響の処理も荒く感じるし、音場の奥行きはあまり感じられない。その代わり、音のエネルギーはすごいですね。まるでマイクをオケに突っ込んだみたいな、生々しさがある。

B 私はちょっと“うるさいな”と感じました。高域のエッジが立ちすぎて、耳に刺さる感じがする。ノイズは少ないけれど、分解能を優先した結果、全体がバラけて、音楽が少し痩せてしまっている印象です。ただ、各楽器のエッジは異様に立っているので、リズムの切れ味は抜群。整理されていないぶん、凶暴性が際立っています。

芳岡 私は、これはこれで価値があると思いました。CBSソニー時代のLPレコードの音を思い出しますね。うるさくて無機的だけど、ブーレーズの冷徹さとか、尖鋭さをもっともストレートに伝えています。バランスは良くないし、ホールの空気なんてほぼ飛んでいるけど、音楽としての“異様さ”が残っている。

――では、次に最新のSACDハイブリッドを聴いてみた印象はどうでしょう。

A はっきり言って、全然違います。最初に感じたのは「普通に聴ける音楽になったな」ということ。低音にしっかり重心があり、音場も奥行きがきちんと再現されている。残響も自然で、ホールトーンが再現されているのがよく分かります。旧盤のようなキツさはなく、かなり聴きやすいです。

B 私も、最初に聴いたときはホッとしました。金管や打楽器の鋭さはやや丸くなりましたが、そのぶんオケ全体の統合感が出ています。各声部がブレンドされて「音楽」になっている。初期盤は、どうしても“音の標本を並べた感じ”が強かった。

芳岡 ただ、そこが難しいところで、新盤は確かに完成度は高いんですが、この時期のブーレーズ独特の過激さが少し後退した感じもある。1970年前後のCBSソニー初期の極端な「音作り」を懐かしむ方には物足りないかもしれない。

C 私も似た印象です。音楽としては新盤の方が圧倒的に良いです。立体感もあるし、フォルテで潰れないし、低域が膨らみすぎることもない。でも旧盤の「何だこれは?」という不思議な緊張感はあまり感じられません。

――結局、この《春の祭典》については、名盤中の名盤だけに“擦り込み”や“思い入れ”の要素も加味すると、二者択一という単純な話ではなさそうですね。

A そうですね。聴きやすさ、総合的な完成度なら、最新SACDで間違いない。ただし、私たちが抱いていたCBS時代のブーレーズのイメージは旧盤が体現している。

芳岡 ブーレーズに何を求めるかで評価が変わりますね。純粋に音楽として楽しむなら最新盤。過激さ、実験性、挑発性を味わいたいなら旧盤。

C どちらか1枚なら言うまでもなく最新盤です。でも2枚あってこその比較の妙、という気もします。

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