復刻!柴田南雄の名連載レコ芸アーカイブ
柴田南雄『名演奏のディスコロジー』 #1

第1回(1976年1月号)ブーレーズのストラヴィンスキー《火の鳥》

SOCO141
ブーレーズ=NYフィルによるストラヴィンスキー《火の鳥》全曲盤[CBS・ソニー]ジャケット

柴田南雄氏の連載、「名演奏のディスコロジー」の再掲載をスタートします。
『レコード芸術』1976年1月号から77年12月号まで、計22回続いた本連載の第1回は、ブーレーズ=NYフィルによる、ストラヴィンスキー《火の鳥》全曲録音盤がテーマ。「たんにこれまでの《火の鳥》に1つの新録音が加わった、というのとはまったく類を異にしている」と評する、その「名演奏」たる理由とは?
※再掲載にあたり、一部の約物変更しております
※文中レコード番号・表記・事実関係などは連載当時のまま再録しています。

1975年の1年間にわたくしが東京で聞いたオーケストラのナマ演奏のうち、最高の出来栄えのものは、ブーレーズ指揮BBC交響楽団によるストラヴィンスキーのバレエ曲《火の鳥》だった。(場所はNHKホール、1975年5月24日)

1910年に完成した、四管編成のバレエの原曲がこんなに素晴らしいものとは、その夜はじめて思い知らされたのだった。

今、念のため当日の豪華プログラムを引っぱり出して見たら、演奏は全曲版なのに、どこでどう間違ったのか「バレエ組曲﹅﹅」となっていて、1919年の二管編成版の組曲の6曲のタイトルまで印刷してあるのには呆れてしまった。訂正の紙片くらい貼付するのが主催者の常識じゃなかろうか。そう言えば、わたくしはこの日、土曜日だったので、ある所で現代音楽講座をやっていた。5時から6時半までのその仕事をすませ、会場に7時ぎりぎりに到着したのだが、どの扉にも女の子がぴったりと見張についていて入れない。7時開演というのは、われわれの永年の経験で、音が出るのは5分後か10分後というのが常識である。最上階にまで廻ってみたが、いつになく各扉とも厳重な警戒で、とうとう第1曲のドビュッシー《遊戯》は聞き損なってしまった。あとで聞くと、その夜イギリス向けの衛星中継があったための措置だそうだが、そのためにあんなに女の子をたくさん動員するなんて何とも滑稽な、子供じみた事大主義ではなかろうかと思った。いや、こんなことはとうに忘れ果てていたのだが、プロを引っぱり出してみているうち、連鎖反応的に思い出したのだ。

その夜、第2曲目(わたくしにとっては第1曲目)にブーレーズの新曲、マデルナ追悼の《リテュエル》があり、まあ、ブーレーズの前衛書法へのなかなか振っ切れない限界といったものが感じられたりしてそれなりにおもしろかった。あの曲のモチーフが、マデルナの絶筆《第3オーボエ協奏曲》のモチーフじゃないか、と言ってたのは誰だっけ? そうであるのかも知れないが、わたくしには何とも言えない。

さて、当夜のそのあとの《火の鳥》だが、これはまったく、じつにみごとな演奏でブーレーズとBBCだって、いつもああ完ぺきにはいくまい、と思うようなものであった。もしかすると、衛星中継で全ヨーロッパで聞かれている、という緊張感が幸いしたのかも知れない。NYフィルとの新盤(CBS・ソニー SOCO141)もとてもあの演奏には及ばない。それはナマの迫力と録音との差というようなことより、もつとオケそのものの素材、素質の問題であり、またその場の状態にもよっているだろう。

だけれども、わたくしはかつて《火の鳥》全曲版をアンセルメのレコードで聞いて、その44分37秒という時間のバカバカしい長さ(わたくしのスコアにタイムが記入してあった)に、へきえき﹅﹅﹅﹅した記憶がある。その時には、やっぱり《火の鳥》は組曲に限る、と思ったものだ。ブーレーズのNYフィル盤は、たとえあの夜のBBCのナマに及ばずとも、彼自身の組曲盤(1911年版。オケBBC響。CBS・ソニー SOCL90)と比べてさえも聞きごたえがある。

このコンテンツの続きは、有料会員限定です。
※メルマガ登録のみの方も、ご閲覧には有料会員登録が必要です。

【有料会員登録して続きを読む】こちらよりお申込みください。
【ログインして続きを読む】下記よりログインをお願いいたします。

0
タイトルとURLをコピーしました