復刻!柴田南雄の名連載レコ芸アーカイブ
柴田南雄『新・レコードつれづれぐさ』 

第八回(1984年2月号)クルト・ヴァイルの音楽の再創造

柴田南雄の名連載『新・レコードつれづれぐさ』第8回の話題は、クルト・ヴァイル作品。当時27歳のサイモン・ラトルが振った《七つの大罪》の印象を皮切りに、ヴァイル・ルネサンスのあり様について思索を巡らせます。
※文中レコード番号・表記・事実関係などは連載当時のまま再録しています。

なにごとも入り立たぬ様したるぞよき

最近、クルト・ヴァイルのレコードが2点ほど出たと聞いて、わたくしもむろん、この作曲家には興味があるので、試聴してみた。

その1枚は、イギリス指揮界の新鋭サイモン・ラトルが振った《七つの大罪》で、ラトル夫人のソプラノ歌手、エリーズ・ロスと男声四重唱が歌い、管弦楽はバーミンガム市交響楽団、この曲をわたくしは初めてきいた(エンジェル EAC90174)。

もう1枚はオーストラリア出身の女声歌手、ロビン・アーチャーが、英訳によるブレヒトの歌詞でヴァイルやアイスラーなどを歌ったもので(エンジェル EAC90175)、マルドゥニー指揮の小編成の伴奏やギター伴奏などで録音されている。内容は周知の曲もあり、珍しい曲もあり、いろいろだった。

ヴァイル:七つの大罪

サイモン・ラトル指揮バーミンガム市so. エリーズ・ロス(S)アントニー・ロルフ・ジョンソン、イアン・ケイリー(T)マイケル・リッポン(Br)ジョン・トムリンソン(Bs)
〈録音:1982年9月〉
[エンジェル(D)EAC90174]LP

ブレヒト・ソング傑作集
〔ヴァイル:ソング劇《マハゴニー》~アラバマ・ソング,同:「三文オペラ」~セックスの魔力についてのバラード,墓碑銘1919,《ベルリン・レクィエム》~溺れ死んだ少女について,《ハッピー・エンド》~スラバヤ・ジョニー,《三文オペラ》~ソロモン・ソング,他

ロビン・アーチャー(vo) ドミニク・マルドゥニー(指揮・p) ロンドン・シンフォニエッタ・メンバーズ ティモシー・ウォーカー(g) ジョン・コンスタブル(ハルモニウム)
〈録音:1981年7月〉
[エンジェル(D)EAC90175]LP

どちらの演奏も、なかなか楽しめる相当の高水準であることを認めた上で言うのだが、残念ながら、どちらもブレヒト/ヴァイルへのアプローチという観点からは、感心できなかった。どこに問題があるかを次に書こうと思うが、その前に、細かい理由はともかくとして、ヴァイルは1950年代の後半以来、最初のうちは主としてイギリスの評論家デーヴィッド・ドリューの努力によって、一種の流行と言えるほど復興して来ているが、どうも、一部では本来の姿とはだいぶ違う形で復興しつつあるのではないか、と思う。それをたんに時代の好みとか、演奏スタイルの変遷の結果と割り切ってしまっていいものかどうか。

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