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ムーティの活力や推進力が導く音楽的感興
フィルハーモニック・ブラス「イタリアーナ!」

ディスク情報

イタリアーナ!
〔ヴェルディ:歌劇《ナブッコ》序曲,ロッシーニ:歌劇《アルジェのイタリア女》序曲,プッチーニ:歌劇《マノン・レスコー》間奏曲,レスピーギ:交響詩《ローマの松》~アッピア街道の松 他全9曲〕
リッカルド・ムーティ指揮フィルハーモニック・ブラス
〈録音:2024年5月〉
[Supreme Classics(D)SMGG001(海外盤)]

イタリア器楽音楽の豊穣さを再認識

名奏者が居並ぶフィルハーモニック・ブラスの第2作。現在最高峰に位置するマエストロ、リッカルド・ムーティが、得意とする母国イタリアの名曲を指揮した、贅沢極まりないディスクである。

同グループは、通常の吹奏楽やイギリス等で盛んなブラスバンドではなく、トランペット6、ホルン4、トロンボーン4、テューバ2、打楽器3の19名で構成された“大きめのブラス・アンサンブル”。メンバーは、ジャーマン・ブラスのマティアス・へフス(tp)、ベルリン・フィルのサラ・ウィリス(hrn)、ウィーン・フィルのエンツォ・トゥリツィアーニ(tb)をはじめ、ベルリン・フィルから4名、ウィーン・フィルから6名が参加した超豪華な顔ぶれだ。ゆえに滅法巧いのは当然だが、全員がドイツ語圏の演奏家でもある。従ってここでは、スター奏者たちがド派手に鳴らしまくるタイプの演奏ではなく、独墺流の抑制の効いた芳醇なサウンドと、巨匠の巧みな構築が相まった、細やかで格調高い音楽が展開されている。

1曲目のヴェルディ《ナブッコ》序曲冒頭のまろやかな響きから早くも耳を奪われ、以後、威圧感のないニュアンス豊かな演奏が続いていく。ロッシーニ《アルジェのイタリア女》序曲の軽妙な味わい、《アルビノーニのアダージョ》の沈んだ美しさ、ヴェルディ《アイーダ》バレエ音楽の軽快な躍動感、プッチーニ《マノン・レスコー》間奏曲の熱い高揚感はどれも堂に入ったもの。ロッシーニ《ウィリアム・テル》序曲の第3部におけるピッコロtpの妙技も聴きものだ。とはいえ、レスピーギ《ローマの祭り》より〈チェルチェンセス〉のめくるめく音の交錯や、同じく《ローマの松》より〈アッピア街道の松〉の重層的な盛り上がりなど、華麗なサウンドも堪能できる。

これは、楽器編成および名手たちの辣腕がもたらす名曲の新鮮な感触と、ムーティ一流の活力や推進力が導く音楽的感興を併せ持った、類のないアルバムであり、イタリア器楽音楽の豊穣さを再認識させられる得難い1枚だ。

                           柴田 克彦(音楽評論)
                           協力:ナクソス・ジャパン

フィルハーモニック・ブラス 収録参加メンバー
トランペット=マティアス・ヘフス(ジャーマン・ブラス)、アンドレ・ショッホ(ベルリン・フィル)、クリスチャン・ホッヘル(ドレスデン・フィル)、ハンネス・ロイビン(ソリスト、元北ドイツ放送響、バイエルン放送響客演)、ヘルムート・フックス(シュターツカペレ・ドレスデン)、ユルゲン・エレンゾーン(ソリスト)
ホルン=ラズロ・ガル(ベルリン・フィル)、サラ・ウィリス(ベルリン・フィル)、トーマス・スタインヴェンダー(ウィーン劇場協会管弦楽団、元ウィーン国立歌劇場舞台オーケストラ)、ラルス・ミヒャエル・ストランスキー(ウィーン・フィル)
トロンボーン=エンツォ・トゥリツィアーニ(ウィーン・フィル)、フィリップ・アルヴェス(シュターツカペレ・ベルリン)、ヨハネス・エットリンガー(ウィーン国立歌劇場舞台オーケストラ)、ヨハン・シュトレッカー(ウィーン・フィル)
テューバ=アレクサンダー・フォン・プットカマー(ベルリン・フィル)、パウル・ハルヴァックス(ウィーン・フィル)
ティンパニ=トーマス・レヒナー(ウィーン・フィル)
パーカッション=ヨハネス・シュナイダー(ウィーン・フィル)、ドミニク・パラ(ソリスト、ウィーン・フィルほか客演)、レオナルド・ヴァイス(オスナブリュック響)
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