週刊フィッシャー=ディースカウ連載
【生誕100年 特別連載】金曜夜はDFDの銘盤を。-不定期編集後記

『週刊フィッシャー=ディースカウ』スピンオフ編
DFDのライヴァル盤《冬の旅》20連発(編集部)

好評配信中の生誕100年特別連載『週刊フィッシャー=ディースカウ』は第8回まで進み(全45回を予定していますので、ようやく1合目といったところですが)このあたりで編集担当より「編集後記」の第1回を発信してみたく思います。当連載は、ドイツの名バリトン、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925~2012)[以下DFD]の録音歴をテーマ別に辿っていますが、第1回から3回にわたって取り上げたシューベルト《冬の旅》は、計14種類ものCD/DVDが確認でき圧倒されるばかりですが、もちろん同時期に様々な名歌手によるたくさんの《冬の旅》の銘盤も誕生しています。一説では《冬の旅》は500種類以上のディスクが存在するそうですが、その中で20枚を編集部で厳選、DFDとの関連も含めつつご紹介。DFDと各歌手どちらが優れている/劣っている、という話ではなく、DFDが活躍した1950年代~70年代、ドイツ・リート界がいかに豊穣な時代であったかを改めて実感いただきたく。※取り上げるディスクは現在廃盤のものも多く、また各歌手をフィーチャーしたジャケット写真をメインに選んでいるので、参考盤/関連盤も含み挙げています。

最初の3枚は、あまりに有名な3人(左より)ハンス・ホッター(1909~2003)テオ・アダム(1926~2019) ヘルマン・プライ(1929~1998)。ホッターは来日時(ドコウピル共演)の1969年東京ライヴも有名だが、エリック・ヴェルバとのDG盤(1961年録音)は、ジェラルド・ムーアとのEMI盤(1954年)と並ぶエヴァーグリーン。アダムはDFDの1歳下で、バッハ《マタイ/ヨハネ受難曲》やワーグナーではDFDと並び立つ存在。ドゥンケルとの共演で底光りする《冬の旅》(1974年)となっている[Eterna]。そしてプライは今さら多言を要しないDFDの良き共演者にしてライヴァル。当サヴァリッシュ共演盤(1971年)[Philips/Decca]の他に、カール・エンゲル(1961年)[EMI]フィリップ・ビアンコーニ(1984)[Denon]の計3種がある。

次は、バス歌手による《冬の旅》としてヨーゼフ・グラインドル(1912~1993)マルティ・タルヴェラ(1935~1989)ジークフリート・フォーゲル(1937~ )の3点を。グラインドルは、DFDの先輩歌手として大きな影響を与えたバス。ヘルタ・クルスト共演の1957年DG録音は、終始語りかけるような枯淡の《冬の旅》(ジャケット写真は同じクルストとのコンビによるレーヴェ/バラード集)。ワーグナーのバス役でお馴染みのタルヴェラ(DFDとはカラヤン盤《ラインの黄金》で共演)がラルフ・ゴトーニ共演で歌った《冬の旅》(1983)も意外に(?)繊細でユニークな演奏[BIS]。フォーゲルは、何度も来日して日本人にも愛されたバスだが、この1982年録音の《冬の旅》[ドイツ・シャルプラッテン]があまり話題にならないのは残念。

1960~80年代はドイツ・リートあるいはドイツ・オペラ界に次々にバリトンの逸材が現れ、オペラでもモーツァルトやワーグナーの諸役でそれぞれに我こそはDFDの後継者、と名乗りを上げた形。その中から《冬の旅》の録音がある8人のバリトンを選んでみた。(上左から右へ、中段左から右、下段右まで順に)トム・クラウセ(1934~2013;録音1992~93年)ジョゼ・ファン・ダム(1940~ ;録音1990)ヨルマ・ヒュンニネン(1941~ ;録音1988)ベルント・ヴァイクル(1942~ ;録音1993)トマス・アレン(1944~ ;録音1990)ジークフリート・ローレンツ(1945~2024;録音1986)ホーカン・ハーゲゴール(1945~ ;録音1983)ロベルト・ホル(1947~ ;録音1987)。クラウセとヒュンニネンはフィンランド、ファン・ダムはベルギー、アレンはイギリス、ハーゲゴールはスウェーデン、ホルはオランダ(レーベルもFinlamdia、Ondine、Forlane、Virgin等々)と国際色豊か。そうした中、やはりローレンツのような旧東独出身の歌手は、さすがにドイツ語の言葉さばきが光る。

DFDの弟子または薫陶を受けた3人としてアンドレアス・シュミット(1960~ )マティアス・ゲルネ(1967~ )クリスティアン・ゲルハーヘル(1969~ )を選んでみた。シュミットは、1990年にルドルフ・ヤンセン共演で《冬の旅》を録音[DG]、10年後の2000年にHaensslerに再録。ゲルネは2003年にアルフレート・ブレンデル共演で録音しているが[Decca]その7年前ハイペリオン・エディション(グレアム・ジョンソン共演)の《冬の旅》に選ばれた時はなかなか衝撃的だった。ゲルハーヘル(ゲロルト・フーバー共演)の2001年録音《冬の旅》[RCA]も、ドイツ・リート界の新星として話題を集めた。

最後はテノールによる《冬の旅》3題(左より)エルンスト・ヘフリガー(1919~2007)ペーター・シュライアー(1935~2019)ルネ・コロ(1937~ )。ヘフリガーとシュライアーは、DFDとはバッハ《マタイ受難曲》で共演し、特に後者とは福音史家とイエスの名コンビだった。ヘフリガーは《冬の旅》を1969年(小林道夫共演)1980年(イェルク・エーヴァルト・デーラー)1991年(岡田知子)の3回録音、シュライアーは、当スヴャトスラフ・リヒテル共演の1985年ライヴ録音[Philips]の後1991年アンドラーシュ・シフ共演[Decca]で再録音(その後2005年にはドレスデン弦楽四重奏団と再々録音[Profile]している)。コロはDFDとはショルティ盤《パルジファル》、クライバー盤《トリスタンとイゾルデ》で共演しているヘルデンテノール。ワーグナーの舞台から退いた後2003年に《冬の旅》を録音[Oehms Classics]。

選・文=編集部(Y.F.)

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