最新盤レビュー

テンシュテット=ロンドンpoによる
マーラー作品のSACD化第2弾3点

ディスク情報

マーラー: 交響曲第5番
クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
〈録音:1988年12月(L)〉
[タワーレコード(D)TDSA10015]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定

マーラー: 交響曲《大地の歌》
クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団,アグネス・バルツァ(A)クラウス・ケーニヒ(T)
〈録音:1982年12月&1984年8月(L)〉
[タワーレコード(D)TDSA10016]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定

マーラー: 歌曲集《子供の不思議な角笛》
ルチア・ポップ(S)ベルント・ヴァイクル(Br)クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
〈録音:1985年2月&1986年3月(L)〉
[タワーレコード(D)TDSA10017]SACDハイブリッド ※タワーレコード限定

マーラーの声楽入り作品をSACDで聴ける喜び

タワーレコードとワーナーミュージック・ジャパンの共同制作による過去の名盤のSACD化は、デジタル初期の録音のアップコンバートにまで及んでおり、クラウス・テンシュテットの遺したマーラーの録音に関しては、前回の交響曲第1、6、7番(すべてライヴ録音)に続き、今回の3点が第2弾にあたる。従来のCDに比べると中声域に焦点をあてた上で間接音をよく再現し、立体感をよく打ち出した音作りになっているのが特徴的で、特に元来フォーマット的にCDよりも人声の表現に強みのあるSACDで《子供の不思議な角笛》や《大地の歌》が聴けるのはありがたい。

その《子供の不思議な角笛》は独唱にルチア・ポップとベルント・ヴァイクルを迎えており、輝かしい声で突き進むポップと演劇的な表現に長けたヴァイクルの歌唱に、テンシュテットらしい色彩の明確な管弦楽が相まって、時に愛らしく、時にアイロニーに満ちたミニチュア的世界の連続を多彩な語り口で楽しく聴かせてくれる。

《大地の歌》はアグネス・バルツァとクラウス・ケーニヒとの共演で、テンシュテットはいくぶん遅めのテンポを採用し、細部の音色の出し入れを克明に音にしつつ、独唱を支えるよりもむしろ鋭く対峙して、感傷的な甘さに陥らない、底光りのする音楽を作り得ているのが見事である。

交響曲第5番は、ロンドン・フィルとのマーラー交響曲全集完成後にライヴで収録された、同じオーケストラとの再録音にあたる。甘さを排した峻厳さと深い没入とを両立させ、かつ重量感のある響きの中で細部の彫琢を入念に仕上げていくテンシュテットのアプローチはここでも健在ながら、緩急や色彩の再現において旧盤よりもコントラストのはっきりとした演出で全曲を染め上げており、彼のアプローチの深化を感じさせる。細部のリズムの切れも鮮やかであり、やはりアナログ録音で全集に収録された第9番をこのテンションで再録音できなかったことが惜しまれる。

相場ひろ (フランス文学)

協力:タワーレコード

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