『ばけばけ』と『豊臣兄弟!』
それぞれのサントラに仕掛けられたものとは?

最新盤レビュー
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サントラ_スライド

文=東端哲也 (ライター)

ヘッドホンで緻密な“ノイズ”を探りたい『ばけばけ』

2025年度後期の“朝ドラ”は「毎~日難儀なことばかり」や「野垂れ死ぬか~もしれな~いね」といったフレーズが現代を生きる私たちが感じている閉塞感とゆるくシンクロする素敵な主題歌も話題を集めたが、近年『ダンダダン』や『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』など人気アニメ作品の音楽をいくつも手がけている、今をときめく牛尾憲輔うしお けんすけによる劇伴も素晴らしかった。

ソロ・ユニット「agraph」としても活躍する電子音楽家である牛尾は、単なるサントラの粋を超えた「音響作品」を生み出す秀逸な仕事ぶりに定評がある。その名を一躍高めたのは山田尚子監督との最初のコラボ作『映画 こえの形』(2016年 京都アニメーション)で、少年と聴覚障がい者の少女との葛藤や成長を描いた本作において、彼は主人公たちをとりまく音環境に着目して、ピアノの「木製のハンマーが動く音、消音フェルトが擦れる音、ペダルがきしむ音、鍵盤と爪があたる音」などの細かい“ノイズ”で楽音を包みこむような曲を制作。またJ.S.バッハの《インヴェンション》第1番ハ長調を超スローで、打鍵や機構の微細な音まで拾うように弾きプリペアド・ピアノ的な響きを作り上げ、それを分割して全曲を劇中で流すという試みにも挑戦している。

今回の『ばけばけ』でもそのリュック・フェラーリ的ミュジーク・コンクレートな手法が炸裂。トキとヘブンの関係性や生活が醸す、どこかユーモラスで時に神秘的で幽玄な“空気感”を出すため、何と彼は松江に赴き、小泉八雲旧邸の床をドラム・スティックで叩いた音や柱を触った瞬間に出る微かな音、二人がよく散歩した月照寺の石畳を実際に歩き小石の欠けら同士が当たる音などを高感度マイクで採録。その素材を劇伴の全体に効果的に散りばめたのだ。もちろんピアノのたてる“ノイズ”へのこだわりも健在。それらはとても控えめなので視聴者は放送時には何か不思議な“気配”のように漠然と感じていただろうが、今回のサントラ盤3枚を例えばヘッドホンの親密なサウンドで聴けば、その驚くべき秘密に気がつくはずだ。

『ばけばけ』サントラ盤
現在のラインナップ

1 連続テレビ小説「ばけばけ」オリジナル・サウンドトラック Vol. 1
〔牛尾憲輔:おもひで(オリジナル版),ちいさなしあわせ,日々是好日,ヘブン,他〕
牛尾憲輔(プログラミング)小林壱成,金子昌憲(vn)飯野和英(va)市寛也(vc)地代所悠(cb)他
〈制作:2025年〉
[ソニー・ミュージック(D)SICX30259]

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2 連続テレビ小説「ばけばけ」オリジナル・サウンドトラック Vol. 2
〔牛尾憲輔:おもひで(弦楽五重奏版,管楽合奏版,他),覚悟,ランプの灯,他〕
牛尾憲輔(プログラミング)篠原悠那,石原悠企(vn)戸原直(va)広田勇樹(vc)瀬泰幸(cb)他
〈制作:2026年〉
[ソニー・ミュージック(D)SICX30263]

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3 連続テレビ小説 ばけばけ オリジナル・サウンドトラック Vol.3
〔牛尾憲輔:花田旅館,新しい家族,手にした幸せと,ふたりの散歩道〕
牛尾憲輔(プログラミング)栗原悠希(p)他
〈制作:2026年〉
[ソニー・ミュージック(D)SICX30270]
※2026年4月22日発売予定

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ワイルドな『豊臣兄弟!』は、楽器の使われ方にもご注目

一方、第65作目となる2026年大河ドラマ『豊臣兄弟!』のサントラ盤は大音量で、できればスピーカーを使って豪快に聴いてほしい1枚。手掛けたのはバークリー音楽大学で学び、最近では『映画 グランメゾン・パリ』や『劇場版 トリリオンゲーム』『映画ラストマン -FIRST LOVE-』といったヒット作の音楽をテレビ・ドラマ版の時代から担当して成功させた気鋭の作曲家・木村秀彬きむら ひであきら。アート系“文芸大河”が2作続いた後の、戦国乱世を舞台にした“王道”ながら、これまでの大河とは違う現代的な音色やリズムに彩られたサウンドが耳を惹く。

『豊臣兄弟!』ノンクレジット版オープニング映像
(大河ドラマ「豊臣兄弟!」公式Instagram)

オープニングタイトルを飾る【Tr. 01】〈メイン・テーマ〉からして、沼尻竜典が指揮するNHK交響楽団に鳥山雄司のギターをフィーチャーした疾走感あふれるロックな一撃。主人公の若き2人、小一郎(豊臣秀長)と藤吉郎(豊臣秀吉)を表すアコースティック・ギターとソロ・ヴァイオリンのメロディが互いに絡み合い、転調しながらさらなる高みを目指して進んで行く上昇感が「今から天下を取りに行く兄弟」というイメージに重なる。実は木村のコメントによると小一郎を象徴するものはギターの他にヴィオラもあり、このヴァイオリン最強の補佐役にして時に主役にもなれる楽器が劇伴の随所に用いられているのだとか。

ユーモラスな【06】〈なんとかしてちょ!〉や藤吉郎のキャラクターそのままの【07】〈このサルめにお任せあれ!〉も魅力的だが、やはりN響が演奏する重厚でヒロイックな【10】〈二匹の猿〉のような楽曲が“戦国大河”の醍醐味。オーケストラからピアノ・ソロに受け継がれ、そこに管楽器や弦楽器が加わってやがて大きなうねりとなり、最後はシンフォニックに幕を閉じる【25】〈大望〉もしかり。またサスペンス調でありながらダイナミックに展開する【16】〈天が動く〉も劇中の名場面と共に記憶に残る。

ラストはブラジルの名手マテウス・アサトのギターがしっとりと主題を奏でる【26】〈大河紀行I〉で締め。今後リリースされる予定の第2弾、第3弾も楽しみだ。

『豊臣兄弟!』サントラ盤
現在のラインナップ

4 大河ドラマ「豊臣兄弟!」オリジナル・サウンドトラック Vol. 1
〔木村秀彬:メイン・テーマ,二匹の猿,天が動く,大河紀行Ⅰ,他〕
沼尻竜典指揮NHKso,室屋光一郎ストリングス,鳥山雄司,マテウス・アサト(g)他
〈制作:2026年〉
[ソニー・ミュージック(D)SICX30260]

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協力:ソニーミュージック

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