シンギング・ラヴェル! 後編
ライヴ・アルバムができるまで

特別寄稿
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管弦楽の魔術師と呼ばれるモーリス・ラヴェル。その管弦楽法の粋を凝らした作品などをア・カペラで演奏したアルバムが出ました。生誕150年の昨年、パリのフィラルモニーで行われたコンサートのライヴ録音で、《ボレロ》はカット無しの全曲版。演奏に参加した一色香織さんから、フランス合唱界やこのアルバムに関して文章を寄せてもらいました。2回に分けて掲載します。

前編はこちら

シンギング・ラヴェル
〔ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ/『マ・メール・ロワ』より眠れる森の美女のパヴァーヌ、妖精の園/無伴奏合唱のための3つの歌/ロンサールの己が魂に/⦅子供と魔法⦆より薔薇の芯よ、さらば羊飼いの娘たちよ/『鏡』より鐘の谷/『シェエラザード』より魔法の笛、つれない人/ボレロ〕

レオ・ヴァリンスキ指揮レ・メタボール
〈録音:2025年3月10日(L)〉
[B Records(D)NYCX10585(日本語解説と訳詞付きの国内仕様盤]
[B Records(D)LBM091(輸入盤)]

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好評発売中

文・写真提供:一色香織(ソプラノ)

 美しいア・カペラ合唱のレパートリー、高レベルの音楽家でありながら演奏旅行になると修学旅行のような雰囲気になる同僚達。指揮者も裏方の事務の人達も皆、単なる仕事仲間を越えて友情を育みたくなる。レ・メタボールはそんな人達です。

 現在、フランスにはいくつもの優れた合唱団やヴォーカル・アンサンブルがありますが、レ・メタボールはその中でもフランス合唱界の中心を担っていく実力があると感じます。日本でレ・メタボールが演奏したのは、2025年の東京春祭にアンサンブル・アンテルコンテンポランとの共演で来日したのが初めてなのですが、次回は是非ア・カペラ合唱のコンサートを聞いて欲しいですね。

 ところで、今度発売されるシンギング・ラヴェルのCDは、パリのフィラルモニー大ホールでのコンサートのライヴ録音をもとにしたものですが、このプログラムは聴衆に非常に人気があって、アルザス地方を中心にあちこちで演奏してきました。

 大抵は田舎の小さな街の教会で、聴衆は地元の人がほとんど。中学生位から上は80代のおばあちゃんまで、一家総出で聞きに来てくれていることもあります。教会でのコンサートは、音響は素晴らしくてア・カペラ合唱には丁度良いのですが、特に冬は寒さが問題になります。フランスの教会はほとんどがカトリック、つまり歴史がある代わりに断熱性や暖房施設はお粗末で、ゴシック様式の建築だと天井も高い為せっかくの暖房の熱も上に逃げる……足元からの冷えに対抗する為、ロングドレスの下にはブーツを履いて靴下にカイロを貼って、と防寒対策は必須です。暖房が全く効かなくて、白い息をはきながら歌ったこともあります。日本の、空調施設の整ったコンサートホールとは雲泥の差です。

 CDにも入っている、ラヴェル自身が作曲した唯一のア・カペラ合唱曲《3つの歌》の2曲目〈楽園の3羽の鳥〉は、合唱をバックにソプラノのソロが歌う曲なのですが、ソロを担当していた同僚が病気で休んだのをきっかけに代役を任され、その後ずっと私が歌うことになりました。
 外国人移民や観光客も多いパリの聴衆ではなく、100%フランスの地方で生まれ育った生粋のフランス人を相手にこのソロを歌うのは、非常にやりがいがあると共に怖さも感じます。特に、アルザス地方は昔からドイツとの国境争いが絶えず、〈楽園の3羽の鳥〉の歌詞内容は、聞きに来ている人達のおじいさん・おばあさんの話であったかもしれないのです。それ故に、ソロを歌い終わった後で大きな拍手や「Magnifique ! (素晴らしい)」と声を掛けられた時は、本当に嬉しかったです。

 そして、プログラムの最後を締めくくるボレロの合唱版。最初から最後までずっと聞こえる小太鼓も最後のシンバルも、全部肉声です。他の編曲には歌詞が付いているのですがこの曲だけは歌詞が付いておらず、全てオノマトペ(擬音語)です。ボレロは元々バレエ曲として作られており、モーリス・ベジャールが振り付けしたものが有名ですが、そのベジャール・バレエ団は普段録音されたオーケストラ版で踊っているのを、2025年に初めてレ・メタボールと共演して合唱版で踊りました。私は残念ながら別の仕事があり参加できませんでしたが……。参加した団員によると、ダンサーの後ろで1列になって歌わなければならなかった為、他声部が聞こえなかったり指揮者(舞台の端に立っていた)が見えにくかったりで大変だったそうですが、次回は是非私も参加したいです。

ラヴェル:ボレロ

 とにかく、フランスの合唱の粋を集めたようなこのCD、特にラヴェル好きな人にとっては新しい魅力をもたらしてくれる筈です。色彩豊かで情緒にあふれる曲の数々、どうぞお楽しみ下さい。

シンギング・ラヴェル
〔ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ/『マ・メール・ロワ』より眠れる森の美女のパヴァーヌ、妖精の園/無伴奏合唱のための3つの歌/ロンサールの己が魂に/⦅子供と魔法⦆より薔薇の芯よ、さらば羊飼いの娘たちよ/『鏡』より鐘の谷/『シェエラザード』より魔法の笛、つれない人/ボレロ〕

レオ・ヴァリンスキ指揮レ・メタボール
〈録音:2025年3月10日(L)〉
[B Records(D)NYCX10585(日本語解説と訳詞付きの国内仕様盤]
[B Records(D)LBM091(輸入盤)]

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企画・制作:ナクソス・ジャパン

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