
メンデルスゾーン:交響曲第2番《讃歌(賛歌)》
鈴木雅明 指揮バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱・管弦楽)ジョネ・マルティネス,澤江衣里(S)ベンヤミン・ブルンス(T)
〈録音:2024年10月〉
[BIS(D)NYCX10579]SACDハイブリッド
【輸入元商品ページはこちら】
文=寺西 肇 (音楽ジャーナリスト)
再評価の時代に
フェリックス・メンデルスゾーンの《讃歌 Lobgesang》は、ヨハネス・グーテンベルクによる活版印刷の発明から400年となる1840年、ライプツィヒで開かれた記念祭での上演のため、当初はオラトリオとして構想された。しかし、最終的には、3つの器楽楽章=第Ⅰ部と、声楽が加わっての9曲(これらを纏めて「終楽章」とする解釈も)=第Ⅱ部から成る「交響曲オラトリオ」という独創的な位置付けに。活版印刷が聖書の普及や啓蒙、民衆の知識向上や識字率に果たした重要な役割を念頭に、これを「光」と見立て、神を賛美する普遍的な音楽として昇華している。
同年6月25日に初演された後、大幅な改訂が施されて、同年12月には現在知られている形となった。一般に“交響曲第2番”と呼ばれているが、これは出版順序の問題で、交響曲としては4作目。実は、書法の充実度や旋律美の豊かさにあっては、演奏回数に優る第3番《スコットランド》や第4番《イタリア》を凌駕するほど。近年は“再評価”の動きも活発となり、ステージで取り上げられる機会も確実に増えている。
新たに示される《讃歌》像とは?
《エリア》《パウル》といったオラトリオや、蘇演版のJ.S.バッハ《マタイ受難曲》など、メンデルスゾーンの手になる作品を上演してきた鈴木雅明率いるBCJが、まだ“隠れた佳品”に甘んじている当作に目を向けたのは、当然の成り行きだったのかもしれない。いや、長年にわたって、バッハの作品に注力してきたからこそ、ロマン派の時代に区切りを置かず、様式は異なるものの、“バッハの延長線上にあるもの”として、メンデルスゾーンを捉え得る彼ら。2024年10月31日に東京オペラシティで行われた《讃歌》の公演は大きな反響を呼んだが、当録音はこれに先立ち、3日間のセッションの形で行われた。
まだそう数は多くない《讃歌》の録音の中にあって、器楽パートに全てピリオド楽器を使用しての録音は、クリストフ・シュペリング指揮ダス・ノイエ・オルケスターほかによるもの[Opus111、1993年]以来だろう。かなり大胆な動きを強いられつつ、常に落ち着いた音色を纏う弦楽器に、まろやかな木管。エッジが立ちすぎない金管。そして、当曲の初演は「総勢500人もの大編成だった」とも伝わるが、鈴木はあえて、弦で6-6-5-4-3、合唱で6-6-6-7と、絞り込んだ編成を選択。第Ⅱ部から登場する、オルガンとの一体感も高い。これにより、必要以上に「巨大な作品」と捉えられがちな《讃歌》に、本来あるべき理想の響きと適正なバランス感、新たなイメージがもたらされた。
また、歌謡的なアダージョ楽章では、ロマン派の歴史的な奏法に倣った、弦楽器の上品なポルタメントが心地よい。さらに、幾多のバッハ演奏で培われた、声楽と器楽の親和性は言わずもがな。特に2曲の二重唱での透明感や、はっとするコラールの美しさは特筆もの。そして何より、これらを纏め上げる鈴木の音楽創りは、冒頭2小節のモットー主題から、作品の結尾での同主題の回帰までを確固たる大枠に。途中で現れる多様な要素へ自然な流れと秩序、有機的な繋がりを与えて、当作の構築感の端正さを浮き彫りにしている。当録音は、“隠れた佳品”の再評価を加速させる、重要な1枚となるに違いない。
協力:ナクソス・ジャパン

