最新盤レビュー

ハンス・ジマー来日記念盤に秘めたる
映画音楽×オーケストラの可能性

ディスク情報

ハンス・ジマーの世界 ライヴ・アット・ハリウッド・イン・ウィーン
〔ハンス・ジマー:『ダ・ヴィンチ・コード』 管弦楽組曲,他〕

ギャヴィン・グリーナウェイ(音楽監督)マルティン・ゲルナー指揮ウィーン放送so他
〈収録:2018年10月(L)〉
[ソニーミュージック SIXP52]Blu-ray

【配信&CD販売サイトへのリンクはこちら

ディスク情報

ライヴ
〔ハンス・ジマー:『ラスト サムライ』組曲,他〕

ハンス・ジマー(g,p,バンジョー),ティナ・グオ,ロワール・コトラー,レボ・M(以上vo),ガスリー・ゴーヴァン,ナイル・マー(以上g),オデーサ・オペラ・オーケストラ他
〈録音:2022年(L)〉
[ソニー・クラシカル(D)SICP31762~3(2枚組)]

【配信&CD販売サイトへのリンクはこちら

ディスク情報

ハンス・ジマーの世界Part2:ニュー・ディメンション
〔ハンス・ジマー:『プリンス・オブ・エジプト』組曲,他〕

リサ・ジェラルド,レボ・M(以上vo),ペドロ・エウスターチェ(木管),村中麻里子(vc),アレクシオス・アネスト(g),ギャヴィン・グリーナウェイ指揮オデーサ・オーケストラ他
〈録音:2024年5月(L)〉
[ソニー・クラシカル(D)SICP31760~1(2枚組)]

【配信&CD販売サイトへのリンクはこちら

今をときめく映画音楽を、オーケストラ・コンサートで!

 現代の映画音楽の人気作曲家として、ジョン・ウィリアムズに次ぐ存在が、1957年生まれのハンス・ジマーだ。
 アカデミー賞の作曲賞を受賞した『ライオン・キング』と『DUNE/デューン 砂の惑星』の2作品の他、『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『ダークナイト』などなど、ハリウッドのSFやアドベンチャー、アニメの大作ヒット映画の音楽にその名を見ない年はない、というほどの大活躍を1988年の『レインマン』以来、40年近く続けている。
 2018年から歌手や器楽奏者からなるバンド(13~19人ほど)とシンフォニーオーケストラ、コーラスによる自作のコンサート・ツアーを行なうようになり、2025年5月には初めての日本公演(公演情報)も実現した。ここで紹介するのは、来日を記念してリリースされたライヴCD2種及びブルーレイディスクである。
 時系列を整理すると、ブルーレイの『ハンス・ジマーの世界』は2018年の同名のツアーから、ウィーンのコンツェルトハウスでのライヴ映像で、同一音源の2枚組CD[ソニーミュージック]が2020年に国内盤で発売されている。次がCD『ハンス・ジマー ライヴ』で、2022年ヨーロッパ・ツアーでの収録。もっとも新しいのがCD『ハンス・ジマーの世界 Part2:ニュー・ディメンション』で、2024年ポーランドのクラクフにあるアリーナでの収録である。

ちがいと共通項にみる、ジマーの原点と音楽観

 曲目や曲順は少しずつ変化し、『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『ライオン・キング』、『ダークナイト』、『グラディエーター』、『インセプション』などのヒット・チューンの組曲は定番として必ず演奏し、『ダ・ヴィンチ・コード』や『ラスト サムライ』、『プリンス・オブ・エジプト』などの組曲をスペシャルとして加える、という構成になっている。
 ジマーの音楽づくりに共通していえるのが、サウンドがきわめてシンセサイザー的である、ということだ。フランクフルトに生まれ(姓をドイツ風に発音すればツィンマーだ)、ピアニストの母のもとで幼少時から歌劇場に通ったというジマーだが、10代でイギリスに渡り、ロック・バンドのキーボード奏者をへて映画音楽家のアシスタントとなり、ハリウッドに招かれて成功したというキャリアの持ち主である。
 この点において、音楽学校で学び、芸術音楽への志向も持つジョン・ウィリアムズや久石譲とは異なっている。かれらのように指揮台に立つこともしない。オーケストラの各楽器の響きはかなり電子音化され、均質化されたものとなる。ポスト・クラシカルのサウンドとの共通性も高い。
 それでも多人数の生演奏にこだわるのは、映画との結びつきから解放し(聴衆が脳裏にその映像を描くことは免れないにしても)、音楽の自律性を高めて、独立した時空のなかでのライヴな体験としたい、ということなのだろう。
 3点のうち『ニュー・ディメンション』では、ヴォーカルのリサ・ジェラルドとレボ・M、木管のペドロ・エウスターチェ、ギターのアレクシオス・アネストなどのソロをフィーチャーしたサウンドの多彩さ、音楽の多様性を明瞭に味わえる。ブルーレイ『ハンス・ジマーの世界』では、その演奏場面を視覚的に確かめられる。『ライヴ』は、スタジアム・コンサートの客席で聴くような雰囲気だ。
 オーケストラ演奏による映画音楽のいまを楽しみ、また考えてみるのに、好個の3点。

山崎浩太郎(演奏史譚)

協力:ソニーミュージック

タイトルとURLをコピーしました