プレルーディウム連載

【連載】プレルーディウム 第6回/舩木篤也

音楽評論家・舩木篤也氏の連載「プレルーディウム」。
プレルーディウム(Präludium)は、ドイツ語で「前奏曲」の意味。毎回あるディスク(音源)を端緒として、ときに音楽の枠を超えて自由に思索を巡らせる、毎月1日更新の注目連載です。
第6回は、第二次世界大戦をくぐり抜けた楽器をテーマとする、タウフゴルトと藤倉大によるナラトリオ(音楽朗読劇)、『借りた風景』のアーカイヴ音源が登場します。

ディスク情報

タウフゴルト&藤倉大:ナラトリオ『借りた風景』(ドイツ語 )

フリッツィ・ハーバーラント,ヴァレリー・チェプラーノヴァ,ザムエル・フィンツィ,フェリックス・ゲーザー(朗読) インディラ・コッホ(音楽監督,vn) テオ・リー(cb) 小菅優(p)
〈収録:2022年6月〉
※ドイチュラントフンクのアーカイヴ配信

貸し借りとしての音楽

 真新しい楽器を購入し、それを自分のものとして所持し、奏でる。そうした経験はあるけれど、私は、人から楽器を借りたり、譲り受けたりしたことがない。少年の頃に、学校の音楽室や部活動の「備品」を使ったのを除いては。
 著名な弦楽器奏者などは、個人や財団から楽器を貸与され、それでもって活動を展開することがある。あれはいったい、どんな感じがするものなのだろう?
 初めてその楽器に触れる。初めてそこから音を出そうとする。その刹那、奏で手は、こんな音を出そう、と自分なりのイメージを抱く。いよいよ音が鳴る。おお、なんだこの音は!──ここまでは真新しい楽器の場合でも同じだ。しかしそれが、よそから、誰かの手を経てやってきた楽器であれば、思うことだろう。「この音」の来歴を、「この音」のかつての所持者のことを。思うというより、たずねてみたくなる、といった感じだろうか。
 そして、それがもし、次のような楽器であったら?
 第二次世界大戦中、戦火をのがれるべく、ブダペストの宮殿地下に匿われたヴァイオリン。
 第二次世界大戦中、ポーランドに置き去りにされたコントラバス。
 第二次世界大戦中、広島で原子爆弾の爆風にさらされたピアノ。
 それらの楽器を戦後生まれの人間が手にし、演奏する──そうした想定で進められる、架空の劇、音楽朗読劇『借りた風景』を、去る2月16日、広島女学院中学高等学校のホールで見た。スクリプト、タウフゴルト作。音楽、藤倉大作曲。朗読、大山大輔、多和田さち子、西名みずほ、日髙徹郎。ヴァイオリン、北田千尋。コントラバス、エディクソン・ルイス。ピアノ、小菅優。

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