人気と実力を兼ね備える3人。2008年に初共演し、2019年に『椿三重奏団』と命名したトリオでの活動は、近年ますます充実の度を深めています。日頃はソリストとしての活動の多い3人が「お互いにアンサンブルの深みを獲得してきた今こそシューベルトを」との思いから生まれた3作目のアルバムは、魂の輝きと哀愁が交錯する作曲家最晩年の傑作をメインに、名作歌曲4編をこのトリオのオリジナル・バージョンで収録。ヴァイオリンの礒絵里子さんからの寄稿を掲載します。

椿三重奏団/ピアノ三重奏曲 第2番 変ホ長調
〔シューベルト:ピアノ三重奏曲 第2番 変ホ長調 作品100 D 929,アヴェ・マリア*,菩提樹*,野ばら*,セレナーデ*〕*編曲:椿三重奏団
椿三重奏団〔高橋多佳子(p)礒絵里子(vn)新倉瞳(vc)
〈録音:2025年10月1日~3日〉
[アールアンフィニ(D)MECO1090] SACDハイブリッド
【試聴・購入はこちら】
Text: 礒絵里子
「今度はシューベルトの2番のトリオをやりたいです!」
ピアノの高橋多佳子さん、チェロの新倉瞳さん、そして私、ヴァイオリンの礒絵里子が3人で初めて一緒に演奏したのは2008年の事でした。現地へ向かう新幹線の中で「昨日が大学の卒業試験だったんです」という新倉さんと落ち合い、現地での2日ほどのリハーサルを経てのコンサート後には、3人とも今後もこのメンバーで演奏したい!という思いを共通して持ちました。その後新倉さんはスイスへ留学し、一時帰国中、そして二拠点での活動後も折に触れて共演を重ね、2019年からは「椿三重奏団」という名前を付けて常設のピアノ三重奏団として活動しています。

椿三重奏団の1st CDではいわゆるピアノ三重奏曲界の王道、メンデルスゾーンとブラームスの各1番の三重奏曲、2nd CDではチャイコフスキーの《偉大な芸術家の想い出に》とショスタコーヴィチの2番という濃厚なロシアの三重奏曲を取り上げました。これらの作品の書き方はどちらかと言うとソリスト3人のガチンコ勝負、異なる楽器が丁々発止の掛け合いをするところが大きな魅力の一つです。これらの作品は冒頭がピアノかチェロからメロディーが始まり、最後にヴァイオリンが登場という作りになっています。
シューベルトのピアノ三重奏曲第2番は亡くなる前年に書かれました。彼の生涯で唯一開催された自作の個展でも演奏され、大好評だったと手紙に書き残したシューベルトの自信作です。すでに具合も悪かった頃に驚異的な気力で書き進められた全体で50分近い大曲で、尊敬するベートーヴェンの精神を受け継ぎつつもシューベルトの独創性や抒情性に溢れた、室内楽なのに交響曲のようなスケールの大きな作品です。冒頭はベートヴェンの運命交響曲のごとく、3人が4小節間をユニゾンで同じフレーズを弾いて始まります。もしや、本当に運命を意識したのかしら?

自分のパートを弾いていて先の4作品と一番違うと感じるのは「順にメロディが出てきてヴァイオリンが最後にメロディを弾く」形ではなく、その後もヴァイオリンも和声の内声や伴奏的役割を持つことが非常に多いことです。3人で緻密に音を紡いでいくという事が他の曲よりさらに必須な作品なのです。この数年、日本各地でのコンサートやアウトリーチの活動で3人での経験を重ねた今だからこそ、シューベルトがやりたい!と言う新倉さんの思いが冒頭の発言へと繋がったのでした。
偶然にも多佳子さんはピアノソロでオール・シューベルトの公演をしたり、私もいくつもの他の編成のシューベルトの室内楽作品に取り組む機会があり、確かに今だ!となり、ほぼ1年をかけてあちこちの公演でも取り上げて演奏し、満を持しての今回の録音となりました。
今までの録音との大きな違いは、今回の使用ピアノがベーゼンドルファー Model 275だという事でしょうか。ベーゼンドルファーのコクのある音色とまろやかな響きは弦楽器ととても溶け合います。ベーゼンドルファーでのCDの録音は全員が初めての経験でしたが、ウィーンの楽器でシューベルトの作品を録れたことは得難い経験となりました。

前2枚の録音ではコンサートの時と異なり、弦楽器がピアノの方を向いて(客席を背にして)ピアノ、ヴァイオリン、チェロで円を組み、その中心上方にメインマイクを立てるマイキングで録音しましたが、今回はコンサート同様の弦楽器も前を向くスタンダードなポジションでの収録となりました。使用ピアノとマイキングの違いを知っての3枚のCDの聴き比べも楽しいかもしれませんね。
今回のCDにはシューベルトの小品も4曲収録しました。どれも既存のピアノトリオ用の譜面は無く、3人で弾いてみて足したり引いたりを考えた椿三重奏団バージョンです。シューベルトが18才の頃の作品《野ばら》、ピアノ三重奏曲の第1楽章にそのフレーズが登場する《アヴェ・マリア》、個人的に大好きな作品《菩提樹》、シューベルトが亡くなった年に書かれた《セレナーデ》と小品のセレクションもナイス!と椿三重奏団得意の自画自賛をして、このアルバムが多くの方に楽しんでいただけるよう祈りつつ筆を置きたいと思います。

写真提供:アールアンフィニ

椿三重奏団/ピアノ三重奏曲 第2番 変ホ長調
〔シューベルト:ピアノ三重奏曲 第2番 変ホ長調 作品100 D 929,アヴェ・マリア*,菩提樹*,野ばら*,セレナーデ*〕*編曲:椿三重奏団
椿三重奏団〔高橋多佳子(p)礒絵里子(vn)新倉瞳(vc)
〈録音:2025年10月1日~3日〉
[アールアンフィニ(D)MECO1090] SACDハイブリッド
【試聴・購入はこちら】
企画・制作:ナクソス・ジャパン

