最新盤レビュー

ケント・ナガノ指揮による
マーラー版《死と乙女》

ディスク情報

シューベルト(マーラー編):弦楽四重奏曲 ニ短調《死と乙女》D810(弦楽オーケストラ版)、ウェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章(1905)、シューベルト(ウェーベルン編):6つのドイツ舞曲 D820(管弦楽版)
ケント・ナガノ指揮ハンブルク州立po
〈録音:2021年5、9、12月〉
[Farao Classics(D)B108116](海外盤)

目の詰んだ響きと
明確な造形

フランツ・シューベルトの弦楽四重奏曲ニ短調《死と乙女》のグスタフ・マーラー編曲による弦楽合奏版と、アントン・ウェーベルンの初期作品として知られる弦楽四重奏のための《緩徐楽章》、シューベルトのピアノ曲をウェーベルンが管弦楽用に編曲した《ドイツ舞曲集》D820全6曲を収める。このうちシューベルトの2曲はケント・ナガノが、2015年より音楽監督を務めるハンブルク州立フィルハーモニー管弦楽団を指揮し、《緩徐楽章》は同フィルのメンバーによって演奏されている。

マーラー編曲の《死と乙女》は、たっぷりと人数をかけた分厚い響きがまず聴きとれる。第1楽章はその重量感の一方で、キビキビとした動きを前面に出して推進していく。主題間の性格の対比も明快であり、表情の変化に加えて質感の違いも動員してメリハリをつけていく点に、大人数で演奏することの利点が感じられる。運動性ということでいえば、第3楽章スケルツォや終楽章での、重量感とアクセントの厳しさとを同時に打ち出したサウンド作りにも感心させられる。しかしいちばんの聴きものは第2楽章の変奏曲だろう。冒頭の主題提示は合奏の一体感ある息遣いと、潤いのある静謐さで深みある歌を歌い上げる。変奏が始まると、主題とオブリガードの動きの間に立体感を創出して、奥行きのある響きを繰り広げていく。そのよく練られた解釈と設計は称賛するしかない。

ハンブルク州立フィルには、以前ゲルト・アルブレヒトと共演した同曲の録音があり、そちらも大編成による演奏であったが、目の詰んだ響きも明確な造形も、今回のナガノ盤には遠く及ばないように思う。

ウェーベルンの《緩徐楽章》は、独墺系のアンサンブルらしい腰の重い歌い口が、この曲に込められた豊潤なロマンに焦点をあてて秀逸と言える。彼の編曲した《ドイツ舞曲集》は、管楽器を目立たせすぎず、よくブレンドした、それでいて細部の明快な響きを作っていて心地よい。

相場ひろ (フランス文学)
協力:(株)キングインターナショナル

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