
ショスタコーヴィチ/交響曲全集
〔交響曲第1番~同第15番〕
ルドルフ・バルシャイ指揮ケルン放送so,ケルン放送cho,モスクワ・アカデミーcho,アラ・シモーニ(S)セルゲイ・アレクサーシキン,ヴラディーミル・ヴァネーエフ(Bs)
〈録音:1992年~2000年〉
[ブリリアント・クラシックス(タワーレコード)(D)97630(9枚組)]SACDハイブリッド
21世紀のはじめに彗星の如く現れたベストセラー全集
ルドルフ・バルシャイ(1924~2010)は、ショスタコーヴィチ本人にも高く評価されていた指揮者で、交響曲第14番の初演も行なっている。ソ連時代にはモスクワ室内管弦楽団とともにたくさんの録音を行っていたが、76年に国外へ亡命してからは、各地のオーケストラに客演はしていたものの、録音は少なくなり、ソ連時代の録音も廃盤になったため、かつてほどの存在感はなくなっていた。それだけに、今世紀になって彼が発表したショスタコーヴィチの交響曲全集はうれしい衝撃だった。演奏も録音も質が高く、しかも廉価だったこの全集は、すぐにベストセラーとなった。
バルシャイの演奏は、尖った部分をデフォルメするようなことはなく、緻密でバランスのよいものだ。とはいえ、ときには大胆な加速による強調などもあり、この指揮者の一筋縄ではいかない個性が感じられる。ケルン放送響の技術に不満はなく、合唱の響きも力強く、ロシアの演奏団体でないことによる物足りなさは感じられない。独唱者も、13番のアレクサーシキンは言うまでもなく、14番のふたりも良い。どの曲も演奏のレベルは高く、現在もスタンダードな全集としての価値は十分にある。
優秀録音がSACD化によって、いっそう生々しい音質に
録音も優秀だ。年代は1992年(7番)から2000年(13番)の9年にわたるが、会場はすべてケルン・フィルハーモニー、プロデューサーのヘルトとエンジニアのシュピットラーも同じということで、音作りは一貫している。
SACD化は今回がはじめてとなるが、通常CDとの比較は、初出盤ではなく、2006年に出た Shostakovich Edition という27枚組[Brilliant 8128]を用いた。すべてデジタル録音のはずだが、ライナーノーツによると、リマスタリングは純粋にアナログ的な方法で行なわれ、アナログ信号を直接DSDに変換したとあるので、通常のデジタル録音のアップコンバートとは違う方法が使われているようだ。ただ、技術的なことはともかく、純粋に聴いた印象で書くと、やはり通常CDに比べて、いくらか響きがまろやかになると同時に、個々の音の粒立ちが良くなっていると感じられた。オーケストラはもちろん、独唱や合唱もより生々しさが増している。アナログ録音のSACD化ではないので、劇的に変わったとまでは言えないが、この差は、単なるマスタリングの違いとは異なる種類の、メディアの違いによる改善であるように思う。
増田良介 (音楽評論)
協力:タワーレコード