音楽評論家・舩木篤也氏による、毎月1日更新の連載「プレルーディウム」。
プレルーディウム(Präludium)とは、ドイツ語で「前奏曲」を意味することば。このコーナーでは1つのクラシック音楽メディアを端緒に、声について、記憶について……自由に思索を巡らせます。
今回登場するのは、エラス=カサド×アニマ・エテルナ・ブリュッヘによる、ブルックナーの交響曲第4番を収めた注目盤。あなたはこのホルンを聴いて、何を思い浮かべますか?
『ブルックナー:交響曲 第4番』
(レオポルト・ノヴァーク版/第2稿(1878-1880))
パブロ・エラス=カサド指揮
アニマ・エテルナ・ブリュッヘ
〈録音:2024年1月〉
[Harmonia Mundi(D)KKC6899](国内仕様)
[Harmonia Mundi(D)HMM902721](海外盤)
※国内仕様は11月上旬発売
ブルックナーの換喩的記憶
「そうですか、まったく違う文化圏のあなたが、そんなに西洋の音楽をお聴きになりますか。しかしまた、どうして?」。そう訊かれた経験のある日本人は、少なくないはず。尋ねてくるのは、たいていヨーロッパ人だ。
森鷗外の頃ならいざ知らず、いまどき何を、とその都度ゲンナリするわけだが、ここで不機嫌になってはいけない。つとめて平静を装い、「いまでは世界中、西洋音楽でしょう。どこでもドミソが基本ですから」と返して煙にまく。相手は一瞬、キョトンとする。
もう少し真面目になって、こんな試みをしたことがある。
それは、ドイツ語圏の人たちと日本人がまじった一団を前にした、あるワークショップでのこと。「異文化理解」について音楽に関わる立場から何か話してくださいとの依頼を受け、その集まりに赴いたのだ。そこで私は彼らに、「いまから聴く3曲で、1. 目立って用いられている共通の楽器は何でしょう? 2. また、その楽器が表しているだろう共通の事柄は?」と言って、ウェーバーの《魔弾の射手》序曲と、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》第2幕と、ブルックナーの交響曲第4番《ロマンティック》第3楽章の、それぞれ頭のあたりを聴かせた。
レコ芸の読者ならきっと、たちどころに答えられるような問いだが、相手はとくべつ音楽に親しんでいるわけではない。果たして、配った紙に記された回答を見てみると――。
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