特別寄稿

ルイ・クープランに魅せられて/谷戸基岩

昨年11月ワーナー・クラシックスより、ジャン・ロンドー(cemb・org)による全10枚組の「ルイ・クープラン作品全集」が発売され、大いに話題になった。日本ではクープランと言えば「大フランソワ」の方を指すことが多いが、いやクープランと言えば「ルイ」のこと、と言いきる谷戸基岩氏に、これを機に、壮大な “大絵巻物” ともいえる「ルイ・クープラン受容史」をご寄稿いただいた。

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オワゾリール社による最初の快挙

2026年はルイ・クープランの生誕400年の記念年とされる。昨年末にはジャン・ロンドーによる「作品全集」がワーナー・クラシックスから「エラート・レーベル」で発売された。1985年にスコット・ロスによる「D.スカルラッティ:555のソナタ」の偉業を達成したかつてのエラート社を思い起こさせる仕事といえるかもしれない。

レコード・コレクターの私にとって「バッハ」といえばそれは第一義的に「ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ」を指すのと同様に「クープラン」といえばそれは真っ先に「ルイ・クープラン」のこと。確かに仕事の関係でフランソワ(・クープラン)の「クラヴサン作品全集」を5種類持っているし、ボーモン盤の「名曲集」の選曲も担当したりしている。けれども断然ルイの方が高貴で魅力的と思っている。かれこれ55年以上にわたり蒐集してきたこの作曲家の音源について、その歴史にまつわる事柄を最高傑作の「パヴァーヌ嬰ヘ短調」(ここでは伝統的な日本語表記を使う)を中心に記したい。とはいえ私がクラシックのレコード蒐集を開始したのは1970年頃。それ以前のことは後追いで知った事実である。ご了承いただきたい。

ルイ・クープランの「クラヴサン曲全集」を最初に成し遂げたのはその楽譜出版も手掛けていたオワゾリール社で1957年のことだった。演奏者はランドフスカの高弟として知られ、フランス・クラヴサン界に多大な影響を及ぼしたイタリア出身のルッジェーロ・ジェルリン。師ランドフスカが手掛けなかったレパートリーの録音を次々と成し遂げていった。楽器はプレイエル社のランドフスカ・モデル。残念ながら未だに中古盤店でこの5枚組全集とは遭遇していない。その全集の中から部分的に再発売されたと思われる独フィリップス盤中古LP「チェンバロ、ヴィオールとオルガンのための作品集」(839305 EGY:①)を新型コロナの前に入手した。ジェルリンは1960年代にフィリップスに数多くの録音を行なっており、他の演奏メンバーもピエール・コシュロー、サーストン・ダート指揮ジャコビアン・アンサンブル(ネヴィル・マリナーがヴァイオリニストとして参加)と、同社と関係がありこの再発売につながったのかもしれない。「パヴァーヌ」でジェルリンは華麗なレジスター操作を展開、鮮やかに色づけて初めての聴き手にも判りやすく提示した。

こうしたモダン・チェンバロの解釈は、同じくランドフスカ晩年の弟子であったラファエル・プヤーナにも共通していた。実は私が最初に聴いたルイ・クープランのクラヴサン曲は「パヴァーヌ」で、プヤーナのコンピレーション・アルバム「華麗なるハープシコードの世界」(PC-1518)に収められていた。1970年代半ばに私が最も信頼を寄せていたレコード批評であった『ラジオ技術』誌掲載の「徹底した厳選主義で行く、西条卓夫——演奏評」で年に数枚出るかどうかの準推奨盤になっていたから買ったものだった。ちなみにこのアルバムの紹介でも西条先生はソレールの「ファンダンゴ」を激賞している。古い音源・名曲ばかりを推奨される方であるかのように誤解されていたが、アリアーガの弦楽四重奏曲などもそうだが、未知の魅力的な作品にも常に関心を寄せていたのだ。

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