最新盤レビュー

チェリビダッケのブルックナーが
最新リマスターSACDで蘇る

ディスク情報

ブルックナー作品録音集(交響曲第3〜9番、テ・デウム、ミサ曲第3番)
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘンpo(2024年リマスター)
〈録音:1982年7月〜1995年9月〉
[Warner Classics(D)2173.224855](海外盤、12枚組、日本語解説書付)SACDハイブリッド

高密度の充実した音色・空間情報により
実演での途切れのない時間の流れを再現

1982年から95年にかけてチェリビダッケがミュンヘン・フィルと築いたブルックナー演奏の集大成が最先端技術を駆使したリマスタリングによって蘇る。今回のリマスタリングを担当した藤田厚生氏によれば「失われた倍音を特別なプロセッサーで再構築し、定位やダイナミックな表現を復元」するという。大半の音源はCD規格(44.1kHz/16bit)のデジタル録音で、アナログ録音の音源も同規格へデジタル変換したマスターのみが現存。いずれも倍音や空間情報など超高域の重要な情報を正確に記録できていなかった可能性があり、倍音復元技術がもたらす音質改善が期待できるという。

2011年に発売された「チェリビダッケ・エディション第2集」のCDと聴き比べると、SACDは高弦と金管楽器のフォルティッシモで気になっていた硬さが影を潜め、厚みと密度が向上していることに気付く。これは声楽曲を含むすべての作品に当てはまり、今回のリマスタリングの最大の成果と感じた。音色の改善は低弦にも及び、第4番第2楽章のチェロの旋律はリマスター盤の方が明らかに柔らかく潤いがあり、コントラバスのピツィカートは一音一音の発音が明瞭に聴き取れる。CDではもやもやとしたなかから低音がじわっと立ち上がる雰囲気があるが、SACDはその曖昧さがかなり少なくなった。

残響がいつ収束したのかCDでは不明瞭な箇所が多い。一方SACDで聴き直すと次のフレーズが動き出す直前まで余韻を耳で追える例が増えていることに気付く。すべてとは言わないが、極端に遅いテンポでも停滞感を感じにくく、重い足取りの中から息の長いフレージングが浮かび上がる箇所も新たに加わっていると感じた。ガスタイクで聴いたチェリビダッケのブルックナーの澄んだ響きは30年近くの年月を経ても記憶に強く刻まれているが、SACDが音色と空間どちらも密度の高い音を獲得したことで、実演での途切れのない時間の流れにかなり近付いたように思う。失われた情報または収録しきれていなかった情報を倍音復元技術がどこまで近似できるかは未知数だが、今回のリマスタリングでは音色と空間情報の向上に顕著な成果を聴き取ることができた。

山之内正 (オーディオ評論)
協力:(株)ワーナーミュージック・ジャパン

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