
Text:編集部(H.H.)
Photo:音楽之友社
2025年9月22日の夜、音楽の友ホールにて「ジャン=ギアン・ケラス『バッハ《無伴奏チェロ組曲》との旅』刊行記念スペシャル・トーク&サイン会」が開催されました! 来日中のチェリスト、ケラスさん、翻訳者の藤本優子さん、音楽評論の青澤隆明さんをゲストに、話題の新刊書籍を深める機会となりました。さらにミニ・コンサートも⁉
音楽に秘密はない!
書籍の主役は、J.S.バッハの《無伴奏チェロ組曲》。これまで2回の全曲録音を行ったこのレパートリーについて、ケラスが人生をとおして接近した真髄を、音楽学者エマニュエル・レイベルとの対話を通して明らかにするものである。

【書籍】
バッハ《無伴奏チェロ組曲》との旅
その真髄を探る対話
ジャン=ギアン・ケラス、エマニュエル・レイベル 著
藤本優子 訳
ISBN:9784276140691〈発行:2025年7月〉
各舞曲の分析、フレージングのポイント、装飾音の付け方、ヴィブラートの有無、テンポの取り方、リピートは必要か、弦の選択など、世界的奏者が体得したバッハ《無伴奏チェロ組曲》の真髄、そして《無伴奏》との個人史を音楽学者との対話を通して明らかにする。撮り下ろしカラー口絵付き。
ケラス バッハの《無伴奏》は人生の伴侶であり美しい友です。一方、今まで私の演奏を聴いてくれた「友」にも、私がどうやってこの曲に向き合ってきたのか、知ってほしいと思っています。また音楽を言葉にすることは物事を見直すことです。この書籍を通して、私自身の考えも深まりました。
青澤 書籍に書かれた「真髄」は、言いかえれば音楽家にとっての「秘密」だと思います。このように、秘密を世の中へ明かしてしまって大丈夫なんですか?
ケラス 本物のコミュニケーションに、秘密はありませんよ。私にとっては、音楽もまたコミュニケーションです。
ケラスは1995年、アンサンブル・アルテルコンタンポランの一員として初来日。それから30年の、いろいろのパーソナル・ストーリーが書籍に込められていることも興味深い。なにしろ、第1章は「東京」と名付けられているのだ。
ケラス 音楽家として常に世界中を動きまわる中で、世界中の文化に興味を持ちました。なかでも日本で知った「天地人」や「生け花」といった思想・文化は、クラシック音楽の構築のされかたと比べてみると面白いと感じました。

レコード芸術ONLINE編集部として気になるのは、これまでに2回あった《無伴奏》全曲録音と、この書籍の時間的関係だ。原書は2022年に刊行されていて、1回目は2007年、2回目は2023年の録音だから、書籍はちょうど間のタイミングに作られていることになる。2回目の録音にむけて彼が感じ考えたこと、読者に伝えようとしたこととは、いったい何だったのか?
ケラス 2回目の録音が実現に至ったのは、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のパオロ・パンドルフォとの出会いがあったこと、そして、コレオグラファー(振付家)のアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルとのコラボレーションの影響が大きいです。
この経緯は、イベントの直前に行ったインタビュー取材にて深く語られている。記事は当サイトにて、後日公開予定だ。
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そして、要申込のトークイベントとして開催されたこのイベントだが、後半にはケラス本人による特別なミニ・コンサートも行われた。演奏されたのは、J.S.バッハの《無伴奏チェロ組曲》から第1番と第3番。使用楽器は録音とは違う、1706年頃製作のストラディバリウス“Kaiser”だった。ケラスが語ったように、惜しみなく真髄を届ける、秘密のない演奏だと感じたひとは、私を含めて多かったのではと思う。

関連ディスク情報

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 BWV. 1007~12
ジャン=ギアン・ケラス
(Vc/1696 Gioffred Cappa)
〈録音:2007年3月〉
[Harmonia Mundi(D)HMC901970(3枚組・2CD+1DVD)]

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 BWV. 1007~12
ジャン=ギアン・ケラス
(Vc/1696 Gioffred Cappa)
〈録音:2023年10月〉
[Harmonia Mundi(D)HMM932388F(2枚組)]
「レコード芸術ONLINE」2024年12月【推薦】by 山崎浩太郎
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