【特別寄稿】武満徹、没後30年。ギターとフルートで紡ぐ、武満徹への深い憧憬と慟哭。(第2回)

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武満徹から「今までに聴いたことがないようなギタリスト」と評され、そのギター作品に対して特別な敬愛をもって取り組んでいる鈴木大介が、作曲家の没後30年を記念して新作CDをリリース。武満徹とのかかわりや、このアルバムの制作背景などを寄稿してもらいました。その後編です。【前編はこちら

鈴木大介、岩佐和弘/海へ
〔武満 徹:さようなら/見えないこども/明日ハ晴レカナ曇リカナ/◯と△の歌/波の盆/今朝の秋/燃える秋/『他人の顔』~ワルツ/三月のうた/おはよう! テキサス/島へ/海へ/『サクリファイス』からの断章(『瘋癲老人日記』の音楽)/エアー〕

鈴木大介(ギター)、岩佐和弘(フルート)

録音:2025年10月22,23日
[アールアンフィニ MECO1087] SACDハイブリッド

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Text&写真=鈴木大介

 フルートの岩佐和弘さんとの出会いは 1992 年のことです。その年の春、スペイン バルセロナでのコンクールで 3 位に入賞した私を、91 年の秋に留学を終えて帰国されていた岩佐さんのデュオのパートナーとして、お互いの師匠である工藤重典さんと福田進一先生が結びつけてくださったのです。岩佐さんは音楽業界の雰囲気を無理なく教えてくれた兄のような存在でもあり、また、多くのサロン・コンサートや、武満さんをトリビュートする演奏会やフェスティバルでご一緒させていただいている仲間でもあります。

上海公演デュオ

 10 年弱ほど前でしょうか、岩佐さんから、もう一度〈海へ〉を録音したいと聞いてからは、常にその機会をうかがっていました。考えてみれば前回の録音はもう四半世紀以上前ですから、お互いの演奏に変化がないはずがありません。と同時に、〈海へ〉の演奏を通じて、岩佐さんと私が経験した出会いや喜び、別れや悲しみが、いつも通奏低音として分かち合われているのです。今回、岩佐さんとも旧知の間柄であったアールアンフィニの武藤敏樹さんによるハイクオリティな録音で実現できたことはとても感慨深いことです。ギターのソロからフルートとのデュオへの自然な移り変わりやバランス感、音色と繊細なダイナミックレンジをあますところなくとらえた今回の録音は、演奏した自分にも多くの驚きをもたらしてくれるのです。

録音セッションの様子

〈海へ〉のアルト・フルートとギターという編成を生かして、武満さんの SONGSを編曲しようと思い立ったのは 2016 年でした。その中のひとつで、その後もたびたび演奏してきた<島へ>を、今回のレコーディングのために岩佐さんと私で少しだけ手を加えてブラッシュ・アップして収録しています。

 岩佐さんの吹く〈エアー〉には、これまでも幾度となくコンサートで接してきましたが、2023 年に上海で武満さんの作品を集めたコンサートをした際に、私は岩佐さんの<エアー>が、まさに録音されるべき時にやってきていることを知りました。武満さんが最晩年に書いたこの作品には、彼のオリジナリティである音色の魔術、ハーモニーの色彩、ジャズ的なイディオム、そして何よりʻうた=エアーʼが溢れています。武藤さんの的確なディレクションで、岩佐さんの演奏がより鮮やかにより活きいきと収録されていく様子は、側で聴いていた僕にも素晴らしくスリリングな体験でした。

 アールアンフィニの武藤氏と

 もう一つの武満さんの音楽の重要な要素、シュール・レアリストとしての姿勢を端的に表現しているのは、〈サクリファイスからの断章〉でしょう。〈サクリファイス〉という曲の第2楽章にあたる Chant 2 は、もともとは同年のラジオ・ドラマ『瘋癲老人日記』のために書いたアルト・フルートとギターのための音楽を、打楽器を伴う断片的なパートでつなぎ合わせたものなのです。そこで出版元の音楽の友社とご遺族の武満眞樹さんのご承諾を得た上で、Chant2 の中から打楽器の加わらない部分を抽出して演奏しました。『瘋癲老人日記』でのギター・パートは、所々低音弦を変則的に低くしたギターの調弦が用いられており、〈サクリファイス〉では、その部分を低音が豊かなリュートで弾くことになっていますが、今回は私が近年愛用している8弦ギターを用いて、原譜通りの再生を試みました。

武満さんのピアノと8弦ギター

 〈おはよう! テキサス〉は、1962年のラジオ・ドラマ『ガンキング』を一社提供していたアキレス株式会社の社史編纂室⻑ 寺岡伸明さんによって、同社の社外広報誌の中に 2023年、発見された曲です。子供向け⻄部劇『ガンキング』の主題歌は、⻑らく<小さな空>だとされていましたが、この<おはよう!テキサス>が放送開始時の主題歌でした。ここに収録されたギター独奏用の編曲は、それに先立つ1957年に製作されたビリー・ザ・キッドを主題に扱ったラジオ・ドラマ『男の死』のなかに、武満さんが書かれたフォーク・ギター伴奏の短い歌曲がありましたので、伴奏部のイントロダクションを引用し、そこからムードを受け継ぎつつアレンジしました。

三月のうた 自筆譜

 私は、武満さんの作品を編曲する時には、武満さんの自筆譜の情報になるべく忠実であるように願っています。今回収録した〈三月のうた〉の2コーラス目は、偶然発見した、武満さんによるピアノのための左手の音型とコード進行が書かれた、原曲より全音高いスケッチをもとに編曲しています。

 このアルバムが多くの方々に楽しんでいただけることを願ってやみません。

【前編はこちら

鈴木大介、岩佐和弘/海へ
〔武満 徹:さようなら/見えないこども/明日ハ晴レカナ曇リカナ/◯と△の歌/波の盆/今朝の秋/燃える秋/『他人の顔』~ワルツ/三月のうた/おはよう! テキサス/島へ/海へ/『サクリファイス』からの断章(『瘋癲老人日記』の音楽)/エアー〕

鈴木大介(ギター)、岩佐和弘(フルート)

録音:2025年10月22,23日
[アールアンフィニ MECO1087] SACDハイブリッド

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企画・制作:ナクソス・ジャパン

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