マーラー:交響曲第7番《夜の歌》
サイモン・ラトル指揮バイエルン放送交響楽団
〈録音:2024年11月(L)〉
[BR クラシック(D)900225JP]
クーベリック=BRSO時代から半世紀。組曲、舞曲集としての面も際立たせる新境地
バイエルン放送響(BRSO)は2024年11月下旬、2023/24シーズンから首席指揮者を務めるラトルと初めての日本ツアーを行なった。中でもマーラー「交響曲第7番」は、ブルックナー「第9番」と並び、新しいコンビの成功を確信させる傑出した演奏だった。このディスクはツアーに先立つ11月6~8日、本拠地ミュンヘンのイザール・フィルハーモニー・イン・ガスタイクで行なわれた定期演奏会のライヴ録音に当たる。BRSOは前首席指揮者マリス・ヤンソンスの時代に日本との関係を一段と深め、ツアー前に必ず同一曲目を演奏して臨む熱意をみせてきた。ラトルは前任者の路線を踏襲したばかりか、マーラーの全交響曲中で最も愛着のある「第7」を携えて真価を問うた。
ディスコグラフィーには過去、1991年のバーミンガム市交響楽団(EMI→ワーナー)、2016年のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(ベルリン・フィル・レコーディングス)と2点の正規盤が存在する。ごつごつとした岩山を一歩ずつ踏み固めて登る、あるいは多種多様なジグソーパズルのピースを子どものように楽しみながら埋めていく趣のバーミンガム盤が今も不滅の輝きを放つのに対し、ベルリン盤はオーケストラの抜群の性能を認めつつも、どこか彼らの流儀に押し切られてしまった感触が残る。
ラトルがまだベルリンのシェフだった2012年にミュンヘンのヘルクレスザールでBRSOへの客演(ハイドン、リゲティ、シューマン)を聴いた際、あまりの相性の良さに驚いた記憶がある。ロンドン交響楽団を経てミュンヘンのポストを得た時は「当然」としか思えなかった。マーラーでも交響曲全集(DG)を完成した首席指揮者ラファエル・クーベリックの時代から受け継がれてきた作曲家へのアフィニティー(親和度)を尊重しつつ、ラトル好みのいくぶんダークな音色を整え、長く練り上げてきた解釈を存分に披露する。ハイドン以来のドイツ=オーストリア交響曲史を見据えたクーベリック(1970年録音)盤に対し、54年後のラトル盤はその先の「解体」から逆算、5つの楽章それぞれが面白さを競い合う「組曲」や「舞曲集」の魅力を存分に発揮している。
池田卓夫 (音楽ジャーナリスト)
協力:ナクソス・ジャパン
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サー・サイモンがバイエルン放送響の首席指揮者に就任してから初の来日公演期間中、記者たちに、さまざまなことを語りました。その模様を速報で、ダイジェストにてお届けしています。