ショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール),ヴィエルヌ:ピアノ五重奏曲
エリック・ル・サージュ(p)樫本大進(vn)シューマン四重奏団〔エリック・シューマン,ケン・シューマン(vn)ファイト・ハーテンシュタイン(va)マーク・シューマン(vc)〕ナタリア・ロメイコ(vn)ユーリ・ジスリン(va)クラウディオ・ボルケス(vc)
〈録音:2024年5月〉
[ソニー(D)SICC30905]
交響曲的で豪快な展開のコンセール
ヴィエルヌでは決然と突き進む潔さ
ヴァイオリン・ソナタと弦楽四重奏の組み合わせを「コンセール」と銘打ったショーソンの特異な形式のこの曲は、協奏曲としても室内楽曲としても演奏し聴くことができる。曲はシューマンやフランクのピアノ五重奏曲の影響を受けながら、前者の奔放なパッションと後者の堅実なポエジーをとりこみ、フォーレの夢想と親密な関係を結んで新境地を開く意欲に富んでいる。ただ演奏によってはそれらが分散したり濁ったりしかねない。樫本大進とル・サージュはフォーレのピアノ四重奏曲とヴァイオリン・ソナタの録音ですでに共演関係にあり、ここでは気心の知れた仲のせいか息の合った演奏を聴かせる。スケールの大きい豪快な展開は「コンセール」を超え、交響曲的で、シューマン寄りの熱気に満ちながら、樫本のヴァイオリンのアリアドネの糸のような導きとル・サージュの水際立ったピアノの切れ味によって、茫洋となりがちなこの曲はペガサスの奔放かつ勇壮な飛翔を得た。
ヴィエルヌはもしかしたらヨナ以上の逆境に苦しみながら作曲することでそれに耐える修練を積んだと思われる。このピアノ五重奏曲は第一次大戦で戦死した息子への追悼として作曲された。演奏によっては、夢であってほしいという願いをこめ、フォーレ風の憂愁に近づくが、冒頭楽章の出だしは新ウィーン楽派の虚無と疎外を、終楽章では狭い音程のなかをドリルしながら突き進むバルトーク風のパッセージを伴い、20世紀の新しい音楽語法を共有する。樫本大進やル・サージュらのこの録音は、悲運をただ嘆くのではなく、逆境を跳ね返そうと渾身の力をこめ決然と突き進んでゆく。バルトーク似のパッセージはヨナが鯨の腹のなかで忍耐強く救済の道を探るがごとく。聖書に「患難は忍耐を生み、忍耐は練達を生み、練達は希望を生む」とあるが、どんな忍耐や練達も「希望」を保証するわけではない。それを自覚した上で最善をつくしながら最後はハ短調の宿命を吹っ切れた潔さで受け入れる。
喜多尾道冬 (ドイツ文学)
協力:ソニーミュージック