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クナッパーツブッシュ、1940~64年の
主要ライヴ録音を50枚組BOXに大集成

ディスク情報

クナッパーツブッシュ/ライヴ録音大集成 1940~1964
〔モーツァルト:交響曲第41番《ジュピター》(1940年)からブルックナー:交響曲第4番(1964年ウィーンでの最後の演奏会)まで〕

ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ベルリンpo,ウィーンpo,ミュンヘンpo,ケルン放送so,ヴィルヘルム・バックハウス,パウル・バドゥラ=スコダ,ゲザ・アンダ(p)他
〈録音:1940年~1964年(L)〉
[キングインターナショナル-タワーレコード(M)TKKNA1(50枚組)]

ライヴならではの個性あふれる演奏は
決して “怪演” などではなく、率直な芸術的発露

今年2025年はハンス・クナッパーツブッシュの没後60年ということで、タワーレコードから「クナッパーツブッシュ/ライヴ録音大集成」と題してCD50枚のボックスセットが発売された。クナッパーツブッシュのセッション録音は、その名声に比して決して多くはないので、死後発売された数々のライヴ録音によって、ようやくこの指揮者の全貌が明らかになったと言えるだろう。とはいえ、主として放送局音源によるレコードやCDは、国内外の様々なレーベルから発売され、時にデータの不記載や誤記があったために、ファンの間でもしばしば混乱を招いていた。

今回のセットにはオペラの全曲録音は含まれず、初出の音源はないものの、既発売のライヴ録音の9割ほどは網羅しており、現在入手困難な録音も数多く収録されている。解説書には平林直哉氏による演奏データに関する丹念なコメントと故宇野功芳氏による的確な演奏評が掲載され、CDがほぼ録音年代順に収められていることが最大の利点だろう。

交響曲では、ハイドンの88番と《驚愕》、ベートーヴェンの2番、《英雄》、《運命》、7番、8番、シューベルトの《未完成》と《グレート》、シューマンの4番、ブルックナーの3番、4番、5番、7番、8番、9番、ブラームスの2番、3番、4番が、いずれもクナッパーツブッシュの得意のレパートリーであり、このセットでも多くが複数の演奏で収録されている。どの演奏も唯一無二の個性的解釈にあふれているが、それらは決して奇をてらったものではなく、率直な芸術的発露であり、この指揮者がベルリン・フィルやウィーン・フィルのような名門オーケストラからこぞって敬愛されていた理由がよく分かる。

ワーグナーの大指揮者として活躍した一方、《アイネ・クライネ》やウィンナ・ワルツのような小品を得意としたのもクナッパーツブッシュのユニークな特長で、ここでも即興とユーモアに富んだ名人芸の数々を聴くことができる。

吉田 真 (ドイツ文学、音楽評論)

協力:タワーレコード

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