音楽家そして画家!
両分野に足跡を残す西洋の芸術家と
そのディスク10選

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音楽×美術の二刀流たち

 クラシック音楽の世界には、ときどき絵画にも才能を発揮する音楽家がいます。逆に、音楽家としても活躍(?)した画家も……。今回はそのような例から一部の人物とそのディスクを、編集部が10点ご紹介します。

Text:編集部(H.H.)

フェリックス・メンデルスゾーン

まずはフェリックス・メンデルスゾーン(1809〜47)。ドイツ・ロマン派を代表する作曲家で、多方面への教養に富んだ音楽史上屈指の天才。同時に早熟でもあって、交響曲第1番を書いたのは15歳の時だ。その才能は画業にも及んでいた。このジャケットに使われている風景画は、1830年頃、フェリックスが旅行先のイタリア・フィレンツェにて描いたもの。水彩によるその精緻な描写が目を惹く。またこのときの印象は、《イタリア》の通称で知られる交響曲第4番にも結実している。

メンデルスゾーン/交響曲全集

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンpo,ベルリン・ドイツ・オペラcho,エディト・マティス,リーゼロッテ・レープマン(S)ヴェルナー・ホルヴェーク(T)
〈録音:1971年1月~73年2月〉
[グラモフォン(S)UCCG9779~81(3枚組)]CD ※現在取扱なし
[グラモフォン(S)UCGG9115~6(2枚組)]SACDシングルレイヤー
※ジャケ写とリンクは後者のもの

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アルノルト・シェーンベルク

アルノルト・シェーンベルク(1874〜1951)はオーストリアに生まれ、独学で作曲を学んで十二音技法を創始したりした、「新ウィーン楽派」の中心人物。また画家ゲルストルから絵画技法を本格的に学び、表現主義運動「青騎士ブラウエ・ライター」にも参加してカンディンスキーとも親交を結んだ一面もある。テイト=イギリス室内管のジャケットに使われた、この一見ぞっとする油彩画はシェーンベルクによる『赤い眼差し Roter Blick』(1910)で、妻の不倫相手との心中未遂事件を経て、自身の作風が無調への大きな一歩を踏み出した時期に制作されている。

シェーンベルク:浄められた夜(1943年弦楽合奏版),室内交響曲第2番
ジェフリー・テイト指揮イギリス室内o
〈録音:1987年1月,12月〉
[エンジェル(D)CE335392]CD ※現在取扱なし
[Warner Classics]配信
※ジャケ写とリンクは後者のもの

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原題:Schoenberg: Transfigured Night, Op. 4 & Chamber Symphony No. 2, Op. 38

【音楽之友社の関連書籍】
シェーンベルク(作曲家◎人と作品シリーズ)
浅井佑太 著

ISBN:9784276221987〈発行:2023年4月〉

十二音技法を生み出し、ベルクやウェーベルンらとともに新ウィーン楽派を立ち上げ後世に多大な影響を与え続ける20世紀最大の作曲家のひとり、アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)が定番伝記シリーズに登場。ブラームス、R.シュトラウス、そしてマーラーたちが君臨する当時の超保守的なウィーンやベルリンの楽壇で、独学の天才シェーンベルクはいかにその楽才を育んだのか。さらに、アメリカへの亡命を機にユダヤ人としてナチスに立ち向かっていくなかで彼が目指した音楽とは。

ミカロユス・チュルリョーニス

ミカロユス・チュルリョーニス(1875〜1911)はリトアニアの国民的作曲家・画家。2025年の生誕150年をきっかけに、東京・上野の国立西洋美術館でも回顧展が開かれるなど、大きな注目が集まっている。このアルバムは、リトアニア出身の指揮者グラジニーテ=ティーラが同国の国立響と取り組んだもので、「自然への回帰 Back to Nature」と題されている。ジャケットの図像は、チュルリョーニスのテンペラ画『第1ソナタ(太陽のソナタ):アレグロ Sonata I (Sonata of the Sun). Allegro.』(1907)。西美では本作品は展示されていないが、他の「ソナタ」や「フーガとプレリュード」と題する二連画など、音楽を直接的に想起させるいくつかの絵画に出会うことができる。

Back to Nature / チュルリョーニス&グラジニス
〔ミカロユス・チュルリョーニス:交響詩《海》,同《森の中で》,ナイチンゲール,秋,前奏曲,ロムアルダス・グラジニス:Sutartinė〕

ミルガ・グラジニーテ=ティーラ指揮リトアニア国立so,フランス放送po,他
〈録音:2024年4月,25年3月〉
[DG(D)4867761(海外盤)]LP

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【展覧会情報】
チュルリョーニス展 内なる星図

2026年3月28日(土)~6月14日(日)
国立西洋美術館 (東京・上野公園)企画展示室B2F

♪展覧会の概要はこちら(国立西洋美術館のページ)

「チュルリョーニス展 内なる星図」告知映像(国立西洋美術館公式YouTube)

ジョージ・ガーシュウィン

ジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)はアメリカの作曲家・ピアニスト。アマチュアの油彩画家でもあり、親交があった亡命後のシェーンベルクの肖像画を描いてもいる。本アルバムには彼が38歳の若さで亡くなってから約2ヶ月後、LAのハリウッド・ボウルで開催された追悼演奏会、その放送音源の一部が収められている。入手困難盤だが、クレンペラーがガーシュウィン作品を振った数少ない記録としても超貴重。ジャケットにはガーシュウィンの自画像が配置されている。

ジョージ・ガーシュウィン追悼コンサート
〔ガーシュウィン:プレリュード第2番(D. ブロークマン編曲による管弦楽版),歌劇《ポーギーとベス》より抜粋,他〕

オットー・クレンペラー,アレキサンダー・スタイナート指揮ロサンジェルスpo,他
〈録音:1937年9月(放送)〉
[Citadel(M)CT 7025(海外盤)]LP ※現在取扱なし
[North American Classics(M)NAC4001(2枚組,海外盤)]CD ※現在取扱なし
※ジャケ写は前者のもの

フェデリコ・マリア・サルデッリ

古楽界の(いい意味での)奇人、フェデリコ・マリア・サルデッリ(1963~)。彼には様々な顔がある。ヴィヴァルディを専門とする音楽学者、古楽オーケストラ「モード・アンティクォ」のリーダー兼指揮者、バロック様式の新曲(!)を多数発表する作曲家、さらに絵画や彫刻をつくる美術家。まだあるかもしれない。最近はGlossaやPassacailleから古典曲のアルバムを続けてリリースしているが、10年ほど前にはこの自作自演盤も出していた。ジャケットにはコラージュ的な構成の自画像をあしらっている。

サルデッリ/バロック協奏曲,詩篇,室内楽作品集
〔オーボエ協奏曲,詩篇第69番《主よ来たりて我を助けたまえ》,4声のフーガ・デル・セポルクロ,他〕

フェデリコ・マリア・サルデッリ指揮モード・アンティクォ,他
〈録音:2013年5月〉
[Brilliant Classics(D)BRL94749(海外盤)]CD ※現在取扱なし
[Brilliant Classics]配信

原題:Sardelli: Baroque Concertos, Psalm, Chamber Music

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ

もちろん、画才があるのは作曲家ばかりではない。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(1925~2012)といえば無数の録音を遺したドイツのバリトン。本サイトでは2025年の生誕100年を祝って「週刊フィッシャー=ディースカウ」を連載していた。そんな名歌手と、このアルバムに何の関係があるのか? 答えはジャケット。当盤バックインレイの記述によれば、フィッシャー=ディースカウが描いた『イタリアのシルエット Italienische Silhouette』という絵画である。アルバムのコンセプトと相まって、なんだか意味深だ。

イタリアへの旅~ドイツ・リートにおけるイタリアの影響
〔リスト:ペトラルカの3つのソネット S.270A,ヴォルフ:イタリア歌曲集より 6つの歌,ミケランジェロの3つの詩,R.シュトラウス:マドリガル Op.15-1,シューベルト:3つのイタリア歌曲 D.902〕

ルチオ・ガッロ(Br)エーリク・バッターリア(p)
〈録音:2022年10月〉
[Da Vinci Classics(D)C00719(海外盤)]CD

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パウル・クレー

CD・レコードをディグったり、美術館へ行ったりしていると、もともと音楽家だったという画家に出会うことがある。たとえばパウル・クレー(1879~1940)がそうだ。

スイスに生まれ、「青騎士」にも接近しつつ独自の作風を築いたクレー。一方で彼は青年期にベルン音楽院でヴァイオリンを学び、同地でプロの楽団員を務めたり、コンサートの批評を書くこともあった。その絵画群には音楽との繋がりが多くあり、それらを分析したブーレーズは『クレーの絵と音楽』と題する書籍を書いてもいた。ブーレーズに作曲を学んだモンタルベッティの作品《人相の稲妻》は、そんな画家に着想を得た楽曲だ。本作品を収めたこの盤のジャケットには、クレーの水彩画『稲妻の前 Vor dem Blitz』(1923)が使われている。

エリック・モンタルベッティ/管弦楽作品集
〔フルート協奏曲《生きることを忘れてはならない》,フィルハーモニー序曲*,パウル・クレーによる交響的幻想曲《人相の稲妻》**〕

エマニュエル・パユ(fl)ジョナサン・ノット指揮スイス・ロマンドo,ダンカン・ウォード指揮ケルン・ギュルツェニヒo*,山田和樹指揮モンテカルロpo**
〈録音:2018年3月~24年6月〉
[Alpha(D)ALPHA1113(海外盤)]CD

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★本アルバムの「新譜月評」はこちら(批評:沼野雄司さん)

ルイ・ステール

スイスの画家ルイ・ステール(1871〜1942)は、ウジェーヌ・イザイにヴァイオリンを学んでスイス・ロマンド管のコンサートマスターを務めた名手でもあった。しかし精神不安と浪費癖のために楽器を手放す羽目になる。さらに指の麻痺を患って絵筆を扱えなくなり、それでも衰えない創作意欲から、指に絵具を塗って描くという壮絶な芸術家人生を送った。晩年の作品はアール・ブリュットやアウトサイダー・アートとして分類されることもある。このアルバムには、ホリガーがスイス・ロマンド管の創立75周年を記念して書いたヴァイオリン協奏曲と、イザイの作品が収められた。ジャケットにステールの絵画があしらわれている。

ホリガー:ヴァイオリン協奏曲《ルイ・ステールへのオマージュ》
〔+イザイ:ヴァイオリン・ソナタ第3番《バラード》〕

トマス・ツェートマイアー(vn)ハインツ・ホリガー指揮南西ドイツ放送so
〈録音:2002年9月,12月〉
[ECM New Series(D)ECM1890(94761941)(海外盤)]CD

ドミニク・アングル

新古典主義を代表するフランスの画家ドミニク・アングル(1780~1867)もまた、音楽家の顔を持つ。腕前については諸説あるが、トゥールーズ・キャピトル管(現・国立管)に所属し、パガニーニと四重奏団を組んでいたという逸話が残るヴァイオリニストでもあったのだ。転じて、本業とは別にマジになる余技のことをフランスでは「アングルのヴァイオリン Violon d’Ingres」と言ったりする。1924年にシュルレアリスムの芸術家マン・レイが、当時の恋人キキを撮った写真作品の題名でも知られるだろうか。このジャケットには、アングルによるパガニーニのドローイングが使われている。

パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番
〔+カンタービレ op.17〕

レオニード・コーガン(vn)シャルル・ブリュック指揮パリ音楽院o,アンドレイ・ムイトニク(p)
〈録音:1955年〉
[ワーナー・クラシックス(M)WPCS50089]CD ※現在取扱なし
[Warner Classics]配信

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アルテミジア・ジェンティレスキ

最後に紹介するのはイタリア・バロックの画家、アルテミジア・ジェンティレスキ(1593~1652)。音楽家としての履歴はよく分かっていないが、代表作に油彩画『リュート奏者としての自画像 Autoritratto come suonatrice di liuto』がある。性暴力を受けた過去をはねのけるように勇壮な女性像を描き、フィレンツェの芸術アカデミーで最初の女性会員となったジェンティレスキ。当時、音楽家としての女性の肖像を描くことは、主体性の強調を意味していた。男性芸術家が支配的にまなざすミューズの姿では決してないものだ。本アルバムには彼女の代表的な作品に沿った楽曲が選ばれ、ジャケットには『自画像』が使われている。

この『自画像』が描かれた場所は1615年頃のフィレンツェとされる。およそ200年後、フェリックス・メンデルスゾーンは同地で本稿冒頭の風景画を描き、それから交響曲第4番を書いた。彼が、当時ほぼ忘れられた存在となっていたジェンティレスキのことを知っていたかどうかは、不明である。

喪失の嘆き~アルテミジア・ジェンティレスキと彼女の同世代の音楽
〔ストロッツィ:恋する人たちよ聞いておくれ,愛するヘラクレイトス,私の涙,他〕

シルヴィア・フリガート(S)アレッサンドラ・ロッシ・リューリヒ(指揮・cemb)アカデミア・ダルカディア
〈録音:2014年10月〉
[Dynamic(D)CDS7829(海外盤)]CD

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