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仲道郁代 ピアノ・リサイタル 音楽の哲学 記者懇親会

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仲道郁代と「音楽の哲学」サントリーホール公演のパネル

2026年3月19日に開催された、仲道郁代さんの記者懇親会へ行って参りました。
デビューから40周年、そしてベートーヴェン没後200年にあたる2027年にむけて、リサイタル・プロジェクト『The Road to 2027』を進行中の仲道さん。今年2026年の5月~6月に予定されている「春のシリーズ」では、「音楽の哲学」と題してベートーヴェンの最後の3つのピアノ・ソナタ、第30番~第32番を軸とする公演を行ないます。
今回の記者懇親会では、『The Road to 2027』シリーズに至るこれまでのことや、注目のプログラムについてを中心にお話しされました。その模様を、ダイジェストでお届けします。

Text:編集部(H.H.)

いまの仲道郁代の原点となった諸井誠との共同研究

記者懇親会は3月19日、ヤマハ銀座ビル本館の6階コンサートサロンで開催され、音楽評論家の柴辻純子との対談形式で進行した。最初は『The Road to 2027』の前に行なわれた、いまの仲道郁代の原点となったコンサートについて。

柴辻 仲道さんは2001年から、彩の国さいたま芸術劇場館長で、作曲家・音楽評論家の諸井誠先生と全12回の『彩の国 ベートーヴェンピアノ・ソナタ/レクチャー・コンサート』に取り組まれていました。当時、私はプロデューサーの立場で関わっていましたが、色々な出来事がありましたね。

仲道 『レクチャー・コンサート』が生まれたきっかけは、私が1回目のベートーヴェンのソナタ全曲演奏会をした際、楽屋に諸井先生がいらして、「もう一度、全曲演奏会をやらないとね」とおっしゃったことでした。これはダメ出しではなくて、「今度は僕が研究してきたことを音にして、次の世代に伝えてほしい」と言うのです。

仲道郁代 Ikuyo Nakamichi

ピアニスト。第51回日本音楽コンクール第1位、ジュネーヴ国際音楽コンクール最高位、エリザベート王妃国際音楽コンクール入賞。以後ヨーロッパと日本で本格的な演奏活動を開始。2018年よりベートーヴェン没後200周年の2027年に向けて「仲道郁代Road to 2027プロジェクト」をスタートし、リサイタル・シリーズを展開中。現在、ソニー・ミュージックジャパンと専属契約を結び、多数のショパン作品をはじめ、レコード・アカデミー賞受賞CDを含む『ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集』や、『モーツァルト/ピアノ・ソナタ全集』、井上道義の最後のスタジオ録音となった『ザ・ラスト・モーツァルト』(以上、RCA Red Label)、古楽器での録音など多数リリースしている。一般社団法人音楽がヒラク未来代表理事、一般財団法人地域創造理事、桐朋学園大学教授、大阪音楽大学特任教授。

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仲道郁代 関連ディスク

1 最後の三大ソナタ~仲道郁代/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 Vol.11
〔ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番,同第31番,同第32番〕

仲道郁代(p)
〈録音:2005年3月,5月〉
[RCA Red Seal(D)BVCC34108]
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彩の国さいたま芸術劇場で収録された、最後の3つのソナタ。当盤は2007年度(第45回)レコード・アカデミー賞の器楽曲部門を受賞している。

2 仲道郁代ベートーヴェン集成~ピアノ・ソナタ&協奏曲全集
〔ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第1番~第32番,ピアノ協奏曲第1番~第5番,他〕

仲道郁代(p)パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
〈録音・収録:2003年3月~06年7月〉
[RCA Red Seal(D)SICC39032(15枚組CD+2枚組DVD+ブックレット)]
【レーベルの商品ページはこちら

2007年のベートーヴェン生誕250年記念特別企画として企画された、上記の録音を含むボックス・セット。

3 ドビュッシーの見たもの
〔ドビュッシー:前奏曲集第1巻,映像第1集,同第2集,喜びの島〕

仲道郁代(p)
〈録音:2020年10月(L)〉
[RCA Red Seal(D)SICC19053]SACDハイブリッド
【レーベルの商品ページはこちら

東京文化会館における『Road to 2027』秋のシリーズ、「ドビュッシーの見たもの」のライヴ録音。

柴辻 仲道さんのベートーヴェンを聴いた諸井先生が、僕のプロジェクトは、この人に絶対お願いしたい!とおっしゃっていたのを覚えています。一方で、依頼を引き受けてくれるだろうかと悩まれていたことも。

仲道 1回のコンサートを準備するために、8時間の個人レクチャーを3回は受けました。加えてお電話も……。大変でしたが、とても貴重な経験です。コンサートは、お客様に向けての長いレクチャーをしてから演奏を行なうものでした。諸井さんはこのときのプログラムをもとに音楽之友社から『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ研究』という本を3冊出版されていますが、実際のレクチャーはもっと深くて、とても専門的なものでした。

諸井誠 関連書籍

A 諸井誠『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ研究Ⅰ』
単行本:ISBN978-4-276-13023-4|2006年12月 音楽之友社

B 諸井誠『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ研究Ⅱ』
単行本:ISBN978-4-276-13024-1|2008年3月 音楽之友社

C 諸井誠『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ研究Ⅲ』
単行本:ISBN 978-4-276-13025-8|2010年3月 音楽之友社

柴辻 一般受けしなさそうな内容にもかかわらず、毎回完売のコンサートでした。

仲道 都心から近くない、彩の国さいたま芸術劇場で行われるこのような公演へ、多くの方がいらっしゃったことに、いまも感動を覚えます。

柴辻 『レクチャー・コンサート』について諸井先生が「仲道さんの強固で豊かなチャレンジ精神に、感嘆の目をみはった」と書かれたことがありました。ここで諸井先生が見抜かれていた仲道さんの「チャレンジ精神」は『The Road to 2027』にも受け継がれていると思います。

仲道 諸井先生と取り組んだ『レクチャー・コンサート』があったからこそ、いまの私があります。「仲道論」のベースにある考え方の物差しは、諸井先生に教えていただいたものです。

9年目の「春のシリーズ」はベートーヴェン×シェーンベルク!

2018年にスタートした『The Road to 2027』の「春のシリーズ」は、ベートーヴェンのソナタを取り上げて、音楽を哲学的に探究するものと位置付けられている。各回ごとに印象的なテーマが設定されるのが特徴で、近年では「夢は何処へ」(2024年)、「高雅な踊り」(2025年)といった名前がついていた。

柴辻 毎回異なるテーマを掲げられていますが、これまでのなかで、発見したことはありますか。

仲道 テーマがあることで、どのように作品を弾くのかが明確になってきていると思います。また、美しい、素晴らしいと平たい言葉で言われることの先にある、音が言葉のような意味をともなって人に伝わっていくようなことを、すごく大切にしたいとも思うようにもなりました。

柴辻 2026年は「音楽の哲学」と題して、ベートーヴェンの最後のソナタ3曲と、シェーンベルクの《6つの小さなピアノ曲》が組み合わされます。シェーンベルクはまだ弾いたことがないそうですね。

仲道 30番と31番を聴いたあと、たいてい続けて32番を弾いたり聴いたりすると思うんですが、その前に、ぜひシェーンベルクのこの曲を入れてみてください。3曲をつなげるのとは、ちがって聴こえるはずです。ベートーヴェンの人生に対する思いの詰まった3曲が、より深く心に入ります。より明確には、コンサート当日のプログラム冊子を作るまでに言葉にしたいですが、いまはシェーンベルクの作品が、ベートーヴェン作品にある人生の不条理を強調するのだと感じています。ベートーヴェンの最後の3つのソナタは悟りの境地に至ったものとして、神格化して捉えられがちですが、私はきわめて人間的で生々しく、そして泥臭い音楽だと思っています。

『The Road to 2027』にはもう1つ、美学的アプローチによる「秋のシリーズ」もある。「春」と同様にテーマが付けられるものだが、ベートーヴェン作品は登場しない。

仲道 こちらは、いままであまり弾いてこなかった作品を自分に課すシリーズです。今年は「組曲~調和と心慮~」のテーマでJ.S.バッハ、ラヴェル、グリーグを演奏します。選曲については、核にベートーヴェンがあることで、何を弾くべきかが浮かんできました。

柴辻 プログラムは2018年の段階で、2027年の分まで、すべて考えられていたんですよね。

仲道 考えたというよりも降りてきたんです。毎年、会場で演奏しながら、過去の自分はなんて素晴らしいプログラムを作ったんだ!と感嘆しています。

[出演]
仲道郁代(p・トーク)

[曲目]
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 Op. 109
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 Op. 110
シェーンベルク:6つの小さなピアノ曲 Op. 19
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 Op. 111

■2026年5月23日(土)14:00開演 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
【詳細はこちら】(兵庫県立芸術文化センターのページ)

■2026年5月30日(土) アクトシティ浜松 中ホール
【詳細はこちら】(アクトシティ浜松のページ)

■2026年6月6日(土)14:00開演 宗次ホール
【詳細はこちら】(宗次ホールのページ)

■2026年6月14日(日)14:00開演 サントリーホール
【詳細はこちら】(ジャパン・アーツのページ)

[出演]
仲道郁代(p・トーク)

[曲目]
J.S.バッハ:パルティータ第1番 BWV.82
ラヴェル:クープランの墓
J.S.バッハ:イタリア協奏曲 BWV.97
J.S.バッハ:パルティータ第2番 BWV.82
グリーグ:組曲《ホルベアの時代より》Op. 40

■2026年10月3日(土)14:00開演 宗次ホール
■2026年10月4日(日)14:00開演 アクトシティ浜松 中ホール
■2026年10月17日(土)14:00開演 長岡リリックホール コンサートホール
■2026年10月18日(日)14:00開演 サントミューゼ 小ホール
■2026年10月31日(土)14:00開演 浜離宮朝日ホール

■仲道郁代 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲演奏会 第5回~最後の境地~
2026年6月27日(土)14:00開演 京都コンサートホール 小ホール
【詳細はこちら】(otonowaのページ)

■仲道郁代 ベートーヴェン “ピアノ室内楽”全曲演奏会 Vol.6
2026年8月28日(金)19:00開演 ヤマハホール
【詳細はこちら】(ジャパン・アーツのページ)

■仲道郁代 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲演奏会 第7回 〈田園~のどやかなベートーヴェン、実り〉
2026年9月6日(日)13:30開演 横浜みなとみらいホール
【詳細はこちら】(神奈川芸術協会のページ)

「楽譜を読む裏づけがあるから、私はどんどん自由になる」

仲道は、いまの心境についても語ってくれた。

仲道 最近は、コンサートという限られた時間と場で、何を問うことができるのか?と自問自答しながら、強い覚悟を持って演奏していきたいと思っています。「この曲、次に弾くことがいつあるだろうか」と考えることが増えました。こう弾かねばならない、ではなく、私はこう考えるからこう弾くんです、と思うようになりましたね。『The Road to 2027』ではトークも行ないますが、そのお話の内容やプログラムのことも、すごく吟味します。

柴辻 『レクチャー・コンサート』の時と比べて、いまの自分はどのように変わったと感じられていますか。

仲道 モティーフの分析方法は、諸井先生のものを受け継いでいます。ベートーヴェンだけでなくシェーンベルクなどでもそうです。このことで、楽譜を音楽化するときの意味づけに自信を持てています。楽譜を読む裏づけがあるから、私はどんどん自由になるんです。『レクチャー・コンサート』のあと、私は修辞学を学んだり、フォルテピアノを弾いたりして、ベートーヴェンのピアノ入り室内楽作品の全曲演奏プロジェクトにも取り組んでいます。考え方の物差しが増えて、楽譜の読みがとても重層的になりました。

このあと、ベートーヴェンの最後の3つのソナタについて、ピアノの実演も交えたミニ・レクチャーの時間もあった(話すスピードが、それまでのモデラートからアレグロに変わった)。仲道自身が「もっとちゃんと喋りたい!」と語っていたものであるが、その一端を紹介して本レポートの締めくくりとする。

仲道 32番はベートーヴェンが「生きる」ことについて、達観することなく、生々しく考え抜いたものだと思っています。たとえば第1楽章は変奏になっていて、問いを重ねながら歩いていく。訥々とつとつとしているかと思えば、ここのように長いトリルを鳴らすような、緊張した場面もある。すべてが「-ing」の音楽です。今度の「春のシリーズ」でテーマとして設定した「音楽の哲学」には、私たちがベートーヴェンと同じように「在る」ことを音楽のなかに聴いて、共感したり、励まされたりして、一歩前に進むことができるように、といった意味も込めています。

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