久末航が日本人最高位に並ぶ第2位入賞、亀井聖矢が第5位入賞を果たした今年のエリザベート・コンクール。7月18日にリリースされるライヴ録音集CDについて、現地で日々熱戦を見守っていた高坂はる香氏に聴きどころを語って頂いた。

エリザベート王妃国際音楽コンクール2025 ピアノ部門
ニコラ・メーウセン、久末 航、ヴァレール・ビュルノン、アルトゥル・インヌウィンケル、亀井聖矢、セルゲイ・タニン、吉見友貴、桑原志織、ミン・ジアシン
大野和士指揮、ブリュッセル・フィル 他
2025年5月のライヴ録音
QEC2025(輸入盤4枚組) オープン価格
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去る5月にベルギー、ブリュッセルで開催された、エリザベート王妃国際音楽コンクールピアノ部門。日本からも、すでにプロとして活躍する優れた6名のピアニストが参加し、彼らが揃ってセミファイナルに進出したことで、多くのピアノ・ファンの注目を集めていました。
このコンクールはハードな課題曲の設定で知られています。中でも、12名が進出するファイナルでは、2曲のコンチェルトを演奏。うち1曲は、本番1週間前に渡される新作を、携帯など外部と連絡をとれる端末を預けて入居した宿泊施設で、自分の力で仕上げなくてはなりません。すぐに世界の第一線で活躍でき、なおかつ古典から現代作品まで幅広いレパートリーに対応できる成熟した音楽家を求めるコンクールならではの課題といえるでしょう。
そんな世界最高峰の登竜門で届けられた演奏のハイライトが収められた4枚組のアルバムがリリースされました。
隣国オランダのピアニストとして初めて同コンクールの優勝に輝いたニコラ・メーウセンさんは、音楽一家に生まれ、地元エリザベート王妃音楽院で学ぶ23歳。演奏家として高いコミュニケーション能力を感じさせる彼の演奏からは、ファイナルのプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番などが収録されています。
日本人最高位タイの第2位となった久末航さんの演奏からは、彼のお人柄が反映されるような、まっすぐであたたかいブラームスのピアノ協奏曲第2番を収録。低音の深く沈み込むような響き、高音の軽やかでエアリーな音、一つ一つが美しく輝いていて、ファイナル最終日の最後を飾るにふさわしい演奏でした。この日初めて本番で弾いたレパートリーだったらしいですが、そうとは思えない確信に満ちた名演。またソロ作品からは、セミファイナルで演奏したバルトークの「3つのブルレスク」も収録されています。
第3位のヴァレール・ビュルノンさんは、ベルギー出身、地元の聴衆から絶大な人気を集めていたピアニストです。ファイナルでは、思い入れがあるというラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏。満員の客席から盛大な祝福を受けており、そんなライヴ感あふれる音源が収録されています。併せて収録されている、セミファイナルのプロコフィエフのピアノ・ソナタ第8番の完成度の高い演奏も聴き応えたっぷり。
そして、すでに忙しい演奏活動を行う身でのコンクールへの挑戦ということで注目を集めた亀井聖矢さんの演奏からは、彼の十八番のレパートリーであるリスト「ベッリーニの《ノルマ》の回想」を収録。難曲を難曲と思わせないところまで弾き込んだ表現で現地の聴衆と審査員を圧倒した空気が、そのまま記録されています。そして最終的に第5位に入賞。このエリザベートを最後にコンクールへの挑戦は最後にすると語る23歳の、力強い音が収められています。
その他、第4位、フランスのアルトゥル・インヌウィンケルさんは、たっぷりと歌い上げたファイナルのシューマンのピアノ協奏曲、第6位、ロシアのセルゲイ・タニンさんは深遠な世界を描いたセミファイナルのブラームスのピアノ・ソナタと、それぞれ強い印象を残した演奏が選ばれています。
そしてこのライヴ録音のすばらしい点は、6位までの入賞者だけでなく、輝かしい個性で聴衆から高く評価されたファイナリストの演奏も収録しているところ。
まず日本の吉見友貴さんの演奏からは、前述のファイナルにおける新作課題曲、クリス・デフォートの「Music for the Heart」。彼はファイナル1番手の奏者として、この作品の正真正銘の世界初演を担ったわけですが、この音源は、デフォートさんたっての希望で選出・収録されたものだそうです。
そして1次からファイナルまで、風格を感じる安定の演奏で多くの聴衆を魅了していた桑原志織さんの演奏からは、セミファイナルで課題となった新作課題曲、アナ・ソコロヴィッチの「Two Studies for Piano」が収録されています。
また、端正かつ鮮やかな表現で圧倒的な支持を集めていたものの、6位までの入賞がかなわなかった中国のミン・ジアシンさんの演奏が収められているのも嬉しいところ。セミファイナルの課題だったモーツァルトのピアノ協奏曲第27番K.595が選ばれています。
忘れがたい名演の数々がたっぷりと収録されたアルバム。日本の4人のファイナリスト全員の演奏が取り上げられているのも、日本のピアノ・ファンにとっては嬉しいところ。これから世界の舞台で活躍する若者たちが、コンクールという特別なアドレナリンの出るステージで披露した、貴重な音の記録です。
Text=高坂はる香


エリザベート王妃国際音楽コンクール2025 ピアノ部門
ニコラ・メーウセン、久末 航、ヴァレール・ビュルノン、アルトゥル・インヌウィンケル、亀井聖矢、セルゲイ・タニン、吉見友貴、桑原志織、ミン・ジアシン
大野和士指揮、ブリュッセル・フィル 他
2025年5月のライヴ録音
QEC2025(輸入盤4枚組) オープン価格
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